第一章 体育祭
うろこ雲が広がる九月の空。
爽やかな風が校庭を吹き抜ける土曜日に、都立美郷高校では全校生徒が参加して、体育祭が行われていた。
学年ごとに八つのクラスがある美郷高校では、各学年の一組と五組が赤組、二組と六組が白組、三組と七組が青組、四組と八組が黄組に別れて、勝敗を競っていた。
一組のナオとカズホ、五組のレナとハルはともに赤組、二年生バンドのメンバーの中では、六組のマコトだけが白組だった。
プログラムも最後の競技である、各学年選抜の対抗リレーを残すのみとなっていた。各学年から選ばれた二名ずつが出場するもので、赤組の二年生代表としてカズホとレナが、白組では、マコトが出場していた。陸上部に所属している生徒は選抜から除外されていたが、他の体育系クラブ所属の生徒を押し退けて、軽音楽部から三人も選ばれていることは、美郷高校における体育系クラブ活動の低調さを表しているのかもしれなかった。
出走順番は学年に関係無く自由に決めることができたことから、白組は、アンカーの直前にレナ、アンカーとしてカズホが走ることになっており、白組のアンカーはマコトだった。
スタートの号砲が鳴り、疾走が始まった。
第二走者までは四チームとも接戦であったが、第三走者で差が付き始め、第四走者が走る頃には、赤組と白組の選手が抜け出る形となった。
白組の選手とほぼ同時にバトンを受け取ったレナは、ポニーテールにした髪を風になびかせながら、綺麗なフォームでトラックを走り抜け、白組の選手をどんどんと距離を離していった。
「レナちゃん! 頑張れ!」
ナオも応援席からレナに声援を送った。
トップで、レナからバトンを受け取ったカズホも、陸上部顔負けの速さでトラックを疾走していたが、遅れてバトンを受け取ったマコトがじりじりとカズホの背後に迫って来ていた。
「カズホー! 負けるなー!」
ナオも必死で応援したが、マコトの追い上げはすざましかった。ゴールが近づく頃には、カズホのすぐ後ろにマコトが迫って来ていた。
しかし、結局、カズホが僅差で逃げ切り、選抜リレーは赤組の勝利となり、トータルでも赤組優勝となった。
「やっぱり、マコトは速いな。もう少し距離が長かったら、確実に抜かれていたな」
「ちくしょー! カズホ! 来年は負けねえからな!」
息を切らしながら、カズホとマコトはグータッチをしてお互いの健闘を称え合った。




