第一章 見えない視線(2)
二人は並んで学校に向けて歩き出した。この金髪カップルが並んで登校する姿は、常に注目の的だった。ナオもイメチェン後は「ドール」と呼ばれて、「クイーン」ことレナと学園を二分する人気を誇っていたし、カズホもこれまでどおり女子生徒の憧れの的であったからだ。しかし、カズホとナオが付き合っていることも知れ渡っていたから、カズホは今までのように女子生徒から告白されることは無くなり、一方、ナオも男子生徒から言い寄られることは無かった。
「ねえ、カズホ」
「んっ?」
「前から訊いてみようと思っていたんだけど、カズホはどうして金髪にしているの?」
「何だ? 今さら」
「私は、いきなり金髪にしたから、急に目立つようになってしまって、いつも恥ずかしいって思っているんだけど、カズホは金髪にして注目されることは苦痛じゃなかった?」
人から注目されるということに慣れていなかったナオは、男子生徒から注目されることを、いつも恥ずかしく思っていた。
「いや、金髪にして、そんなに変わったところはなかったかな」
「そうか、……そうだよね。カズホは金髪にしてても、そうじゃなくても、ずっと女の子から注目されてきたんだもんね」
「ナオは、金髪がまだ恥ずかしいって思うのなら、また黒髪に戻すのか?」
「ううん。私が金髪にしたのは、あの嘘吐きな三つ編みの頃の私に二度と戻らないようにって思ったことと、カズホみたいに、常に前向きで一生懸命でいたいって思ったからなの。だから、カズホが金髪でいる間は、私も金髪でいるつもり」
「それじゃ、俺が金髪にした理由が下らない理由だったら、がっかりか?」
「そうかも。……ひょっとして白髪を隠すために染めているとか?」
「何で高校生の俺が白髪なんだよ。俺はまだ十七歳だぞ」
「さっきのお返しですよ~」
ナオはちょっと舌を出してカズホにアカンベーをした。
「でもさ、そうするとナオも同じく金髪に染めているんだから、その理由はお前にも降り掛かってくるんだぞ。黒色の白髪染めから金色の白髪染めに変えただけだってな」
「け、健忘症で白髪の女子高生って、年齢詐称どころじゃないですよ~」
「はははは」
「もう~、カズホ! ちゃんと教えてよ」
「分かったよ。……そうだな。やっぱり、音楽をトコトンやり込もうっていう意気込みからかな」
「意気込み?」
「ああ。中学の時は軽音楽部がなくて、バンドの練習場所とかを確保するのに苦労したから、高校は軽音楽部があるところが良いなって思って、俺は美郷高校に入ったんだ。美郷高校の軽音楽部はけっこう盛んに活動しているって聞いていたからね。もちろん、家からも近いという理由もあったけどさ」
「うちの高校の軽音楽部が昔から盛んに活動していたって、確か、ショーコちゃんもそう言っていたよ」
「そうだろう。だから、高校に入ってからは、バリバリ音楽をやるぞっていう意気込みを最初から先輩達にも見せつけてやるんだって思って、高校入学前に髪を染めたんだよ」
「ふ~ん、そうなんだ。……あっ、でも、髪を染めた時って、カズホのお母さんは何も言わなかったの?」
「ちゃんと事前に相談をしたよ。お袋は反対しなかったぜ」
「話の分かるお母さんなんですね」
「基本、お袋は俺がやりたいようにやらせてくれるんだ。人様に迷惑を掛けないのなら自分のやりたいようにしろってな」
「へえ~、良いなあ。カズホのお母さんにも一度、会ってみたいな」
「そのうちにな。俺は、ナオのお父さんに、いつもCDを貸してもらうお礼を言うために会いたいんだけどな」
「う、うん。……でも、お互いの親に会うのって、やっぱり、ちょっと恥ずかしいよね」
「まあ、そうだな。もうちょっと時期を見てからって感じかな」
「そうだね」
――二人の会話が一瞬途切れたその時、ナオは後ろから誰かに見られているような感覚を覚えて、思わず立ち止まって、振り返った。
ナオ達の後ろには、同じ高校の学生が何人か歩いていたが、ナオの知り合いはいなかったし、目が合った者もいなかった。
「どうした?」
カズホが心配そうに訊いてきた。
「う、うん。誰かに見られているような気がして……。気のせいかな?」
「ナオも今は男子に人気があるからな。誰かに見られていたって不思議じゃないだろ」
「そ、そんなことはないよ。そ、それに、私はカズホだけが見てくれてたら良いんだから、……あっ」
ナオは一人照れてしまい、真っ赤になって俯いてしまった。見た目は相当派手な感じに変わったナオであるが、ナオ自身は奥手で一途な女の子のままであった。