第三章 一番近くの騎士(4)
三日後。
マコトの症状が安定したということをレナから聞いた軽音楽部二年生部員は、練習は中止にして、全員でマコトの見舞いに行くことにしたが、レナは寄る所があると先に行ってしまった。カズホとナオとハルは、歩いて病院まで行った。
病室に入ると、マコトは起きてテレビを見ていた。
「おう、お前ら、見舞いに来てくれたのか? 済まないな」
そんなマコトの様子を見て、カズホも安心したようだった。
「調子良さそうだな。左手の具合はどうだ?」
「大丈夫だ。さっきも運指の練習を密かにやっていたところだ」
「無茶するなよ」
「分かっているって」
「ところで、バイトはどうするんだ?」
「ああ、怪我が治ったら再開したいと思っているんだ。けっこう楽しかったからな」
「そうか」
ナオは、先に部室を出たレナがまだ来ていないことに気が付いた。
「マコト君。レナちゃんはまだ来てないんですか?」
「レナなら、今日はまだ見ていないけど……」
すると、丁度そこに、トートバックを肩に引っ掛けたレナが病室に入ってきた。
「ああ、みんな、もう来てたんだ」
「レナ、何だ、それ?」
マコトがレナに訊いた。
「マコトんちに寄って、マコトの着替えを持って来たのよ。マコトのお母さんに頼まれたから……」
「俺の着替え? ……ひょっとしてパンツも?」
「そうだよ。代わりに汚れ物を持って帰るから」
レナはそう言うと、ベットの横に置いてあった洗濯かごに入れていたマコトの下着と持ってきた新しい下着を交換し始めた。
「レナ。俺が自分でやるから良いって~」
さすがのマコトも恥ずかしげにレナに言った。
「恥ずかしがることないわよ。マコトのパンツなら、今まで嫌というほど見てるから」
「小学校の時とかだろう~」
「何だか、お嫁さんみたい」
ナオがニコニコしながらレナに言ったが、レナはそう言われるのを予測していたのだろう、慌てふためくことはなかった。
「母親って言ってもらえるかな。ガキ大将の母親は大変なのよ」
「俺はお前から産まれた訳じゃないぞ」
「ううん。今のマコトは、私が産んだのよ」
「……?」
ナオはレナの発言の意味が分からなかった。他のみんなも同じだったようだ。
「ちょっと子育てには失敗したところもあるけど、責任は最後まで果たさないとね。ふふふふ」
何だか、よく分からなかったが、楽しそうに笑うレナの笑顔が、すごく眩しく感じられたナオだった。




