第二章 アルバイトをしよう(2)
練習が終わった後、カズホとナオはドールにいた。
ナオは、カズホが一年生バンドの部室に行っている間にマコトが話したバイトの話をカズホにした。
「へえ~、マコトがねえ」
「うん、それを聞いて、私もバイトしてみようかなって思っちゃった」
「ナオがバイト? 止めとけよ」
「ど、どうして?」
「絶対、バイト先に迷惑掛けることになるからな」
「ど、どういう意味ですか~」
「何か物を運んでいても、ボーっとしていて転んだりしそうだからな」
「わ、私は、そんなドジじゃありません!」
「でも、服部がナオのことを『ドジっ娘ナオちゃん』というドラマの主人公になれるって言っていたぞ」
「ミエコちゃんが? もう~」
「違うのか?」
「違います! ……って言いたいけど、ごく一部は当たっているかも」
「何だ、その『ごく一部』って」
「私だって、何も無いところで転んだりしませんよ。ちょっと、けつまずくくらいです」
「そういうのを世間一般ではドジって言うんだよ」
「……ふにゃ~」
「でも、バイトのこと、具体的に何か考えているのか?」
「ううん、まだ何も。でも、ファーストフード店とかどうかな? カウンターで注文を訊くことくらいは私でもできると思うんだけど」
「その髪だと接客業は、まず無理だろうな」
「えっ、そうなの?」
「そりゃそうだろ。だって見た目はヤンキー娘なんだから」
「ヤ、ヤンキー娘……」
「ナオだって、初めて俺を見た時、不良だって思ったんだろう。まだまだ金髪はそんなイメージを持たれているんだよ」
ナオは、カズホに初めて会ったときのことを思い出し、そしてファミレスやファーストフード店の光景を思い浮かべた。
「確かに、ファミレスやファーストフード店で、金髪の店員さんって見たこと無いね」
「そうだろう。大手のファーストフード店なんかだと、店員の服装や髪型についてまで細かく決められているみたいだぜ」
「そうなんだ」
「でも、ファーストフード店とかでも、皿洗いとか裏方の仕事なら大丈夫なんじゃないか。後は、金髪がそんなに目立たない、楽器店とかレンタルスタジオのような音楽関係の仕事とかもな」
「残念ながら、レナちゃんちは、もうバイトの募集とかしてないみたい。マコト君も訊いていたけど」
「そうだな」
「立花楽器店でバイトできたら、もっとカズホと一緒にいられるのになあ」
「でも、ナオが一緒にいれば、俺も仕事に集中できない気がするなあ」
「えっ、そんな。カズホの仕事の邪魔なんてしませんよ」
「いや、お前が近くにいるだけで気が散るんだよ」
「え~。そ、それじゃあ、授業中はどうなんですか?」
「もちろん、気が散って授業に集中できないよ。俺の後ろで、空腹すぎて気を失っていないかとか、ボケすぎてヘラヘラ不気味に笑っているんじゃないかとか心配でさ。最近、俺も成績が落ちてきた気もするし」
「もう~、私はそんな変人じゃないです!」
「まあ、そんなナオと付き合っている俺も変人だから」
「全然、フォローになっていません!」
「はははは」
「はい、お待たせ」
丁度、二人の料理と飲み物を持って来たマスターにナオが訊いた。
「マスター。ここはバイトの募集をしてないですよね?」
「残念ながら、自分が生活することだけで精一杯だからね」
「大体さ、予約もしていないのに、毎日、この席に座れるんだから、どれだけ客が来ているかが分かるよな」
「はははは。二人が毎日、来てくれるから何とか路頭に迷うことはないんだけどね。でも、ナオちゃん、バイトを探しているのかい?」
「ええ、自分でできるのがあれば考えてみようかなって思ってて」
「ナオちゃんができるバイトねえ……。う~ん……」
「マスターまで、そこで考え込まないでくださいよ~」
「はははは」