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ドール― after story ―  作者: 粟吹一夢
Vol.3 近すぎて見えない関係
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第二章 アルバイトをしよう(1)

 次の日。軽音楽部の部室。

 練習前のミーティングで、カズホがショーコから聞いた「ザッパ」出演の話をすると、マコトが早速食い付いてきた。

「やっぱり、ライブハウスに出たいよな。このバンドなら恥ずかしくないだろう。っていうか、積極的に打って出たいくらいだな」

「そうだな。今のオリジナル曲をもうちょっと増やして一時間程度のライブができるようになれば、出演するか?」

 カズホもマコトに同意した。

「そうだな。ハルとナオっちはライブハウスに出たことはあるのか?」

 まず、ハルが答えた。

「中学校の時に、一回だけ出たことがあるよ。もっとも観客はほとんど身内だったけどね」

「学校の友達を総動員して来て貰ったってことか?」

「まあ、そういうことだね」

「ふ~ん。ナオっちは?」

「私はライブハウス出演の経験は無いです。中学の時のバンドは学園祭とイベント出演くらいでした」

「そうか。ライブハウスは良いぜ。まあ、ハルのように身内にだけ来て貰って盛り上がるという手もあるけど、やっぱり、俺達はフリーの観客を相手に勝負をしたいよな」

「『ザッパ』の客はけっこうシビアだからな。そこでライブを盛り上げることができれば、とりあえずは胸を張って良いんじゃないかな」

 カズホにもライブハウス出演への静かなる熱意がみなぎっているようだった。

「そうだな。レナも出るだろう?」

 いつもどおり、癖で頬杖をついているレナにもマコトが話を振った。

「そうね。中学校時代にマコトと組んでいたバンドで出演した時は散々な結果だったから、リベンジしたいわね」

「えっ、どうなったの?」

 ナオがレナに訊くと、レナは頬杖をついたまま、ナオに向かって話した。

「演奏している最中に客が帰り始めたのよ」

「まあ、あの時は、中学生の分際で天狗になっていた鼻をへし折られたよな。でも、それで俺はもっと上手くなってやるって気合いが入ったけどな」

「そうね。あの時は、とにかく観客を楽しませなきゃって思って、肩に力が入りすぎていたのかもって思うわね。自分達が楽しめないで観客が楽しめる訳が無いのにね」

「そうだな。今のバンドは、自分達でも、やっててめちゃくちゃ楽しいからな。観客だって楽しめるはずだよ」

「うん。そう考えるとライブするのが楽しみね」

 マコトとレナが珍しく意見の一致を見たようだ。

「なんか、やる気が出てきたぞ~。よ~し、そろそろ練習するか?」

「あっ、マコト、悪い」

 気合い十分で立ち上がったマコトは、ずっこけてしまった。

「何だよ、カズホ?」

「すまんすまん。これからハルと一緒に一年生達の指導をしなければならないんだ。新しいオリジナル曲のリズムアレンジに助言をしてくれと山崎に頼まれてな。十分くらいで終わると思うから」

「そうなのか。……分かった。それじゃ、それが終わるまで待っているよ」

 カズホとハルが部室を出て行った後、マコトが後に残ったレナとナオに話し掛けた。

「ショーコさんもバイトしているのか?」

「女子大生はけっこう出費が嵩むって言ってましたよ」

「そうか。……俺もバイトしようかな」

「マコトがバイト?」

「おう。俺もちょっと考えるところがあってな」

「マコト。熱でもあるんじゃない?」

「おい、レナ。どういう意味だよ」

「だって、マコトんちはお医者さんだから、お金に困ることなんて無いでしょ」

「そのことは言うなよ」

「あっ、ごめん」

 マコトの父親は開業内科医としてクリニックを開設しており、確かにマコトがお金に困ることはなかった。しかし、医科大学をストレートで合格している兄二人に対して、三男坊として好き勝手にギターを弾いて、勉強があまり好きでないマコトは、コンプレックスを抱いていた。そして、医者の息子呼ばわりされることを嫌っていた。レナもそのことは幼馴染みとして当然、知っていたが、マコトが急にアルバイトをしたいと言い出したことから、ちょっと驚いて、つい口にしてしまったのだ。

「でも、どうして?」

「カズホは、いつもお前んちでバイトしているだろう。ハルも練習が終わった後、塾に行って勉強しているし。俺だけ何にもやってないなあって思っちゃってさ」

「だからバイトをやるってこと?」

「ああ、やっぱり自分が音楽に掛けるお金くらいは、自分で稼ごうかなって、ショーコさんの話を聞いて思い立ったんだよ」

「ふ~ん。マコトも大人になったんだね」

「一応、成長はしているぜ。ところで、レナんちは、もうバイトの募集はしていないよな?」

「たぶん。それにマコトがうちで働いていたら、仕事もしないで、ずっとギターを弾いているんじゃないの?」

「そうかもな。目に毒の風景が広がっているからな。お前んちは」

「マコトに向いているバイトといえば、肉体系とか?」

「まあ、それは言えるな。頭脳系は難しそうだし。道路工事とか荷物の積み卸しとかかな。……うん、ちょっとマジで探してみるかな」

 カズホとハルが二年生バンドの部室に戻って来たことで、バイトの話は一時中断となった。

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