第一章 クマのストラップ(3)
ショーコは言いたいことを言ったら、先にドールを出て行った。
カズホの食事が終わった後、カズホとナオもいつもより早くドールを出た。いつもはここで別れて、ナオは駅に、カズホは立花楽器店に向かうのだが、今日は、来る前に約束していたとおり、二人は駅前のショッピングセンターに向かった。
「ねえ、カズホ。何を買うの?」
「確か、一階に雑貨屋があったよな?」
「うん、あるよ。そこに行くの?」
「ああ」
ショッピングセンター一階の奥まったところに、ファンシーグッズやお洒落な雑貨を扱う店があった。ここは以前に、ナオがカズホの誕生日プレゼントを買った店でもあった。
カズホは、ディスプレイされた商品を無言で見て回っていたが、あるコーナーで足を止めた。そこには、色々なキャラクターグッズが置かれていた。
「ナオ」
「はい」
「俺も女の子にプレゼントを贈ったことが無いから、ナオと一緒に選びたいと思ったんだ。せっかく贈ってもナオが喜んでくれなければ意味が無いからな」
「えっ?」
「ほら、ここに『くま兵衛』のグッズがいくつかあるぞ。ナオはどれが良い?」
「カズホ……。私に買ってくれるの?」
「ああ」
「でも、急にどうして?」
「ちょっと反省したんだよ。今頃になって、ナオの好きなものを初めて知るなんて、俺、何やってんだって思ってさ」
「……」
「だから、特に理由は無いんだけど、何となくナオの好きなものをあげたいなって思い立ったんだ。宝石みたいな高価な物はプレゼントできないけど、このくらいなら……」
「宝石なんていらない。それに、カズホはいつも私に元気をくれるんだから、それで十分だよ」
「でも、まあ、せっかく俺がこんな気持ちになっているんだからさ。こんな機会はもう二度と無いかも知れないぜ」
「……うん、分かった。ありがとう、カズホ」
「どれにする?」
「それじゃあ、……え~とねえ、……これにする」
ナオが選んだのは、指を立てて「グッジョブ!」と言うキメポーズをしている「くま兵衛」の人形が付いたストラップだった。
「分かった」
カズホは、そのストラップを二つ持ってレジを済ませた。
二人は店を出て、ショッピングセンターの一階中央付近にある休憩スペースのベンチに座った。カズホはラッピングもしていない、その「くま兵衛」ストラップのビニール包装を破いて、そのうち一つをナオに渡した。
「はい、ナオ」
「ありがとう」
「俺は、ここに付けよう」
カズホは、「くま兵衛」ストラップを、以前にナオがカズホの誕生日にプレゼントしたコントラバスのストラップが付いている自分のスクールバッグの取っ手部分に重ねて付けた。
「それじゃあ、私も鞄に付けようっと」
ナオも「ランドセル」を手提げとして使用する際の取っ手部分に「くま兵衛」ストラップを付けた。
「お揃いだね。そういえば、私達、お揃いのものって持っていなかったね」
「いや、一つあるぞ」
「えっ?」
「この髪だよ」
「あっ、そうか。それじゃ、二つ目のお揃い。へへへ」
二人は微笑みながら見つめ合った。
「カズホ。ありがとう」
「ナオが喜んでくれて良かったよ」
「うん」
「次は、ナオの誕生日プレゼントだな。三月だったよな?」
「うん。誕生日にもプレゼントをくれるの?」
「当たり前じゃないか。ナオがくれたんだから、俺もな。あっ、でも、俺一人じゃあ、『くま兵衛』グッズは恥ずかしくて買えないから、『くま兵衛』関係のプレゼントをする時は、今日みたいにナオと一緒に買いに来るよ」
「それじゃあ、私の誕生日プレゼントは「くま兵衛」グッズをリクエストしようかな。どんなプレゼントか楽しみにしたいから、カズホが一人で選んでね。ふふふ」




