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ドール― after story ―  作者: 粟吹一夢
Vol.2 見つめられるドール
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第三章 誰にも負けない愛(1)

 次の日の朝。

 カズホは、昨日、レナに聞いていた、駅の改札口前の街路樹の陰に隠れて立っていた。

 しばらくすると、新垣がやって来て、レナの話どおり、駅の壁際に立った。カズホは街路樹の陰から出て行き、新垣の前に進み、声を掛けた。

「新垣」

「あっ、カズホ先輩。……あ、あの、お、おはようございます」

 カズホの登場に、新垣は相当、慌てているようだった。

「ああ、おはよう。ところで新垣。お前、こんなところで何やってんだ?」

「な、何って、あの、僕は電車通学ですから……」

「それは分かっているよ。電車を降りてから、こんなところで何でボーッと立っているんだよ?」

「そ、それは……」

「ナオを待っているのか?」

「……!」

「違うのか?」

 いつもどおり、静かに語りかけるようなカズホの口調だった。

「ナオ先輩に言われて来たんですか?」

「ナオが俺に告げ口したと思っているのか? 告げ口されるようなことを、お前はやっているのか?」

「……」

「俺はナオに言われたから来たんじゃない。お前とナオが、毎朝、一緒に歩いて登校していると噂になっているそうだぜ」

「そんなことは……」

「とにかく、新垣。ちょっと顔を貸せ。こんなところじゃ、ちゃんと話ができないからな。始業時間までには、まだ時間もあるだろう」

「……」

「俺について来い」

 カズホは、新垣の方を見ることなく、学校に向かって歩き出した。新垣は、ちょっと躊躇したようだったが、覚悟を決めたのか、カズホの後をついて行った。


 丁度その時、駅の改札を出たナオは、カズホと新垣が一緒に歩いて行っている後ろ姿を見た。

(カズホ! それに新垣君も……。ひょっとして……)

 ナオは、そっと二人の後をつけて行った。

 カズホが先を歩き、新垣がその後を俯き加減について行っていた。二人は学校の方向に無言で歩いていた。

 通学路の途中にある小さな公園の入り口まで来ると、新垣がついて来ていることを確認するかのように、カズホは、一瞬、後ろを振り返った後、その公園に入って行った。新垣も黙ってついて行った。ナオも物陰に隠れながら、二人について行った。

 カズホは、公園の中央付近にある小さな噴水の近くに来ると立ち止まり、両肩に背負っていたベースギターと鞄を近くのベンチに置いた。そして、振り返り、新垣と向かい合った。

 ナオは、二人の横顔が見られる位置にあるケヤキの木の陰に隠れた。

 厳しい顔をしたカズホが新垣に話し掛けた。

「途中で逃げ出すかと思ったが、ちゃんとついて来たな」

「……」

「新垣。お前、ナオのことが好きなのか?」

「……何のことですか?」

「毎朝、ナオと一緒に登校しようとして、ナオが電車から降りてくるのを駅で待ち伏せしていたんじゃないのか? 今朝もな」

「そ、それは……」

「どうなんだ? ナオのことが好きなのか?」

「僕がナオ先輩のことを好きだと言ったら、カズホ先輩はどうするんですか?」

「何にもしないよ。お前が誰を好きになろうと、俺がどうのこうのと言える訳じゃない。お前がナオのことが好きだとしても、それを止めろと言う権利は、俺にだって無い」

「……」

「それに、好きな女の子とは一緒に居たいと思う気持ちは、俺にも分かる」

「……」

「でも、お前が、毎朝、ついてきていることを、ナオがどう思っているのかを考えたことはあるのか?」

「……ナオ先輩からは止めてとは言われませんでした」

「ナオはな、軽音楽部の後輩のお前を冷たくあしらうことはできなかったんだよ。ナオは、自分のことを置いておいても、相手に嫌な思いをさせたくないと考える女の子なんだよ」

「……」

「言葉にしてはっきりと断られなかったからといって、相手が自分を許していると思うことは、独りよがりにすぎないんだよ。態度や表情で分かるだろう。ナオは、お前に対してニコニコと笑っていたか? お前の目を見て話をしていたか?」

「……」

 新垣は、それまでカズホを睨むようにカズホと向き合っていたが、答えに窮するカズホの問い掛けに、自分の行動に自信を無くしたのか、俯いてしまい、カズホと目を合わそうとしなかった。

 そんな新垣に、カズホは容赦することなく問い掛けた。

「最近、ナオは誰かに見られていると感じていたそうだが、お前か? お前がずっと、ナオを見張っていたのか?」

「……」

「ナオは怖がっていたぞ。これ以上、ナオにつきまとうな。ナオに嫌な思いをさせる奴は俺が許さない。これからも続けるつもりなら、俺と戦って俺を倒してからにしろ。お前にそれだけの勇気があるか?」

「……」

「俺と戦う勇気が無いのなら、ナオにつきまとうのは止めろ」

「……」

「お前も男なら、女の子から話し掛けてくれるような、振り向いてくれるような男になってみろ。何も言わずに、ただ、ついてくるだけの男に女の子が好意を持ってくれるはずはないだろう。自分を磨いて、ナオが好きになってくれるような男になってみろ」

「……」

「ナオが、俺よりもお前の方が好きだって言うくらいになってみろ。そうすれば、俺は自ら身を引いてやる」

「えっ」

 新垣は思わず目を上げてカズホを見つめた。

「だがな、俺もお前には負けないぞ。俺は、お前以上に、いや、世界中の誰よりもナオのことが好きだからな!」

「……!」

 新垣は打ちのめされたように肩を落として、また俯いてしまった。

(……カズホ)

 ナオは、木の陰で涙ぐみながら、空を見上げていた。

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