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ドール― after story ―  作者: 粟吹一夢
Vol.2 見つめられるドール
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第二章 愛しき人の隣に(2)

 その次の日の朝。

 ナオがいつもどおり駅の改札を出ると、また、後ろから呼び止められた。

「ナオ先輩」

 ナオが振り向くと、新垣がニコニコしながら近づいて来た。

「おはようございます」

「お、おはよう」

 ナオは、イメチェン前に男の子と話すときに感じていた、変な緊張感に体が縛られた。新垣が自分を見つめる視線に、何か特別な感情を感じたのかも知れなかった。

 ナオが歩き出すと、新垣も並んで歩き出した。

「ナオ先輩。今日も蒸し暑いですね」

「そ、そうだね」

「部室の冷房は、いつから入れて良いんですか?」

「さあ、いつなんでしょうね」

「ナオ先輩も暑がりなんですか?」

「ま、まあ、普通だと思うけど……」

「僕は、どっちかというと寒がりの方で、夏はそんなに苦手ではないんです」

「そ、そうなんだ」

 新垣は、はっきり言って、どうでも良い話題を次から次に話し掛けてきて、ずっとナオと並んで歩いた。

「それじゃ、ナオ先輩。お先に失礼します」

「う、うん。そ、それじゃあね」

 カズホとの待ち合わせ場所まで来ると、新垣はちゃんと挨拶をして、一人で学校に向かって歩いて行った。

 次の日も、その次の日も、新垣は、駅でナオに呼び掛けてきて、カズホとの待ち合わせ場所まで一緒に歩いてきた。日本の電車がいくら時刻どおり正確に運行しているといっても、会いすぎじゃないかと、ナオもちょっと不思議に思ったが、話す内容も部活のことや他愛の無いことであり、軽音楽部の後輩として慕ってくれているんだと考えると、新垣をすげなくすることはできなかった。

 また、並んで歩いている時に、不必要にナオの方に寄って来ていると感じることも、最近になって、やっとカズホと並んで歩くことができるようになったことや、マコトやハルと同じように一緒に歩くことができるかどうかを考えたら、まだ、その自信は無いことに気が付いて、やはり自分の問題なのだと考え、告げ口のようにカズホに言い付けることはしなかった。


 そんなある日の昼休み。

 レナは、いつもどおり、二年五組の女生徒達と一緒にお弁当を食べていた。レナの同級生のファンはますます増えて、今では机を寄せ合って、七人の女の子達がレナの周りに集まっていた。

 ふと、その同級生の一人がナオの話をしてきた。

「レナちゃん。一組の水嶋さんって、どんな女の子なの?」

「えっ、どういうこと?」

「佐々木君と付き合っているんだよね?」

「そうね」

「でも、私、見ちゃったんだけど、ここのところ毎朝、別の男子とおしゃべりしながら一緒に駅から歩いて来ているんだよ。それも佐々木君と待ち合わせしている所まで」

「えっ、何かの見間違いじゃないの?」

「ううん。間違いないって。そのこと、佐々木君、知っているのかな?」

「さ、さあ」

 女の子のゴシップ好きは年齢とは関係無いようだ。レナの同級生達は、たちまちその話題で盛り上がってしまった。

「それって佐々木君と二股掛けているってこと?」

「あの佐々木君と付き合いながら、他の男子と二股掛けるなんて、すごいよね」

「ついこの前まで、三つ編みだったのに、一旦、はじけたらすごいのかもね」

「抑圧されていた本性が反動で吹き出したみたいな感じなのかな」

 同級生達の話を黙って聞いていたレナは、根拠もなくナオがあばずれかのごとく面白可笑しく話す同級生達に腹を立てた。

「ナオちゃんはそんな女の子じゃないわ!」

 いつもの温和な雰囲気のレナしか知らない同級生達は、初めて聞くレナの強い口調に驚いたようだった。

「ご、ごめんなさい。レナちゃん」

 大好きなレナに叱られたと思った同級生達は一斉にレナに謝った。

 頭を上げた同級生達がレナを見ると、レナはいつもの優しい笑顔に戻っていた。

「とにかく、根拠の無い噂話は止めよう。私がちゃんと確かめるから。ねっ」

 レナに諭すように言われた同級生達は、もうナオの話をすることはなかった。


 その日の放課後。

 ナオがカズホと一緒に部室に行くために教室を出ると、廊下に立って待っていたレナが声を掛けてきた。

「ナオちゃん」

「あれっ、レナちゃん。どうしたの?」

「ちょっと話があるんだけど。……二人きりで」

 レナはちらっとカズホの顔を見ながら言った。

「えっ、私と?」

「うん」

「それじゃ、俺、先に行っているぞ」

 カズホは、一体何事かと不思議そうな顔をしていたが、相手がレナならば心配は無いと考えたのか、一人で先に部室に向かって去って行った。

 ナオとレナは、旧館と新館の間にある中庭に移動して、ベンチに並んで座った。

 ナオは、何となく、レナの表情が険しいような気がした。

 レナは、ちょっと怒っているみたいに、低い声で話し出した。

「ナオちゃん。最近、朝、駅からカズホ以外の男の人と一緒に登校しているっていう噂を聞いたんだけど、本当なの?」

「えっ、……う、うん。本当のこと」

「誰なの?」

 ナオはレナに詰問されているように感じた。

「い、一年生の新垣君」

「新垣君? うちの新入部員の?」

「う、うん」

「どうして? 新垣君と何かあったの?」

「何かあったのかって、新垣君も電車通学らしくて……」

「それで良く会っているうちに仲良くなったってこと?」

「えっ?」

「カズホは知っているの?」

「カズホにはまだ話していない。だって、私の勘違いかも知れないし……」

「はあ? 勘違い?」

「えっ? 何?」

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