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計画停電の夜

作者: でんでろ3

「まだかなぁ?」

「そろそろだろ」

「中止だったりして」

「それは無いだろう」

「あっ、消えた」

計画停電は初めてではなかったが、夜になってからというのは、初めてだった。

「翔太、大丈夫か?」

「大丈夫だよ」

「一人でトイレに行けないくせに」

お姉ちゃんが揶揄するのも仕方ない。翔太は、もう中学校に上がるというのに、一人でトイレに行けない。昼間でもだ。

「お義母さん、ランタンつけますか?」

「いいでしょ。みんなで寝ましょう」

ついさっきまで、エアコンで暖めていた居間で仲良く雑魚寝を決め込んだ。家の中を暗くしても、外が明るければ、ここまでは暗くならない。キャンプにも行ったことのない子供たちには、初めての暗さだ。

「なんだか不思議な感じだね」

お姉ちゃんが言う。

「ねぇ、なんか話そうよ」

と、翔太。

「計画停電のおかげで、家族の対話が増える家って、多いんじゃないかしら」

これは、お母さん。

「ねぇ、お父さんは子供のころ何になりたかったの?」

「お父さんはねぇ、科学者になって巨大ロボを作りたかったんだ」

「えー! 出来るわけないじゃん」

「将来の夢が、ムシキング博士だった翔太に言われたくない」

「それは、保育園のころの話でしょ」

「お父さんだって、それくらい小さかったころの話です」

私が憮然として言う。

「じゃあ、翔太の今の将来の夢はなんだ?」

「清掃局の職員」

「また、打って変わって地道だな」

「いいでしょ」

今が就職氷河期であることを考えると、大きいんだか小さいんだか分からない夢だ。

「お姉ちゃんは?」

「小説家だよ」

「あっ、やっぱり変わってないのね」

「お父さんが変なものばっかり書いてるからよ」

今度はお母さんが憮然とする。

「そういうお母さんは何だったの?」

「まぁ、科学者というか研究者というか……。漠然としてだけど」


その後、何を話しただろうか。とりとめのない話が、ぽつりぽつりと闇に吸い込まれていったような気がする。


「あっ、ついた」

不意に部屋が明るくなった。

「予定より早かったな」

時計を見て私が言った。


 被災地の方には、本当に申し訳ないが、計画停電も悪くはないな、と思ってしまった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 結構まともかつ心暖まる話だったなぁ・・・
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