薬草を届けよう (後)
それから、異世界時間で2週間後(現実時間で14時間)
タロウは、神殿の老神官を訪ねていた。
薬房の中に入ると、老神官が数名の神官に作業の指示を出している。
「こんにちは、カシスさん。」
タロウは、老神官に声をかける。
(今更だが、老神官の名前は、カシスさんである。)
「タロウ殿。ようこそおいで下さいました。」
老神官は、人好きのしそうな笑顔でタロウを迎えてくれる。
「薬の方は間に合いましたか?」
「おかげで、助かりました。」
「それはよかった (笑)」
「これもすべてタロウ殿のおかげですじゃ。本当にありがとう。」
「いえいえ、お役に立てて何よりです。」
「ついては、お礼を兼ねてお茶をご一緒しませんじゃろか?」
「ぜひ、よろこんで」
「でわ、参ろう。ギルドホールにわしの部屋がありますでのう」
こうして、タロウはカシスと共に神殿に向かった。
カシスさんの後ろに続いてだいぶ神殿の奥までやってきた。
(途中、数人の神官らしき人とすれ違ったが皆、カシスに頭をさげていく・・・)
「つきましたぞ。入りなされ」
重厚な扉を開け、中に入ると質素ではあるが品の良い調度品が目につく。
タロウは勧められるままに、樫でできた応接セットに腰かけた。
2人が、イスにこしかけると。若い神官がお茶をもってきた。
「まずは、熱いうちにどうぞ~」
「はい。いただきます」
運ばれてきたお茶は、鮮やかな赤い色をしたローズピップティーのような飲み物だった。
飲む度に爽やかな酸味が口いっぱいに広がっていく。
ある程度のどを潤すとタロウは、話を切り出した。
「あの~。カシスさんはいったいどんな方なんですか?」
(神殿にこんな立派な部屋があり、すれ違う神官の様子からタロウは訝しがっていた)
「ほっほっほっー。 しがないただの薬師の老いぼれじゃ」
「しがない老いぼれであれば、こんな部屋は与えられていないでしょう?」
「まあ、そうじゃのう。(笑) 今は田舎の薬房で隠居しておるが、少し前までは中央神殿に務めておった。その頃は、そこで大神官などと呼ばれておったがのう。」
「大神官ですか!? すごく偉いんじゃないですか。」
(大神官とは、どの神殿にも1人いるギルド長みたいなものである。しかしながら、中央神殿の大神官ともなれば、ミノス全域のトップとも言える。)
「まあ、今は引退した老いぼれじゃ。 それよりも、タロウ殿こそただの下級神官ではありますまい?」
どうやら、タロウが短時間で大量の薬草を入手してきたり。聖遺物を複数もっていることをいっているようだ・・
「いやいや、コレを見ていただければわかりますが、しがない下級神官ですよ」
タロウは、懐からジルコンの帰還石をとりだし、カシスに渡す。
(新緑の宮をクリアして、へマタイト(初心者)からジルコン(初級者)へと変わっていた。)
カシスは、帰還石に手をかざした。
「ふむふむなるほど。 確かに神聖魔法レベル杖の扱い共に平凡じゃな・・」
「そうでしょう・・ (汗)」
「しかし、タロウ殿はウソをついておりますな?」
ジロリとタロウを見据える。
「あははは。ウソなんかついていませんよ (汗)」
「本当かな? 聖遺物は、確かに迷宮で手に入ることもあるが、それは最上級ランクS迷宮での話じゃ。しかし、タロウ殿はまだ初級と呼べるレベル。とても、S迷宮などクリアーできまい。または、王家が管理しているものもある。じゃががタロウ殿は、王族にも見えぬが・・」
「あははは ・・ (汗) いやあ、幸運にもF迷宮”新緑の宮”で、出るかもしれないじゃないですか^^;?それに、平凡な顔ですが王族かもしれませんよ? (汗)」
タロウは、苦笑しながらごまかす。
「タロウ殿。それはどちらもありえないのですじゃ。まず迷宮は神が創ったもので、迷宮の掟には聖遺物はS迷宮からと書かれておるし。王族は、代々神力をあつかえん。」
「・・・・・・・」
「さて、もう一度聞くがが、タロウ殿は何者じゃ?」
カシスは、タロウに観念して話せと目で訴えている。
しばらく、タロウは身の危険がないか逡巡した。そして、カシスの人柄を思い浮かべる。神殿の最高権力者になったような人が、薬のために頭を下げたのを思い出す。その真摯な態度は、あって間もないがカシスを信用してもいいよう気にさせたのだった。
「わかりました。包み隠さずお話いたしましょう。信じていただけるかわかりませんが。・・・」
こうして、タロウは異世界から来たこと。
神様に会い、異世界間を行き来できること。
前世の能力で聖別技術が使えることを話し、実際に使って見せた。
「・・・・・ にわかに、信じがたいがのう。目の前で聖別も見たことだしのう。信じますじゃ。」
「ありがとうございます。」
(やはりカシスは思ったような人柄みたいで、タロウはほっとする。)
「ただ、一点タロウ殿に申しあげておきたいことがありますじゃ。」
「なんでしょうか?」
「実は、先ほどの聖別じゃが。タロウ殿のレベルの術はおそらく、タロウ殿しか扱える者がおらん。我々ミノスに住むものは、せいぜい使えても結界くらいじゃ。」
「本当ですか?」
「ええ、聖別は祖先たちがこちらの次元に来るときにほぼ失われてしまった技術。ここ数百年でやっとこ結界として復活したくらいですじゃ。」
「そうなんですか・・・・」
「うむ。なぜならば、聖別を使うものしか転送門をあけられなかったのじゃ。だから、文明ごとこちらに移住したときに、みな聖別を使えるものはあちらの世界で死んでしもうたとつたえられていますじゃ。」
「そうだったんですか。すごいスキルだったんですね」
(タロウは内心、自分のスキルに驚いていた。こんなチートだったとは・・・)
「だから、タロウ殿が聖別ができる事は今後話さないほうがよいと思いますじゃ。いろいろな権力争いなどに巻き込まれるからのう・・」
「はい、気を付けます (汗)」
「うむうむ。してタロウ殿。肝心の薬草の報酬なんじゃが、」
カシスは懐から銀貨の詰まった包みと、聖水の杯を取り出し、机におく。
「ここに、銀貨が20枚ほどはいっておる。カッハの代金が6枚、聖水の代金が14枚。ですじゃ」
「薬草の代金はわかりますが、聖水の杯は差し上げたもので、そこから出た聖水からの代金は、受け取れません。」
「タロウ殿ならそういうと思っておったが、こちらとしても事情があるのじゃ」
「事情とは?」
「そうじゃのう・・・」
カシスの事情・・
その1)聖遺物などと言うものが、急にあらわれてると出所の問題がでてくること。
その2)神殿の中立性の関係上、莫大な寄付は受けられないこと。
「とまあ、こんな理由で、聖水を買った形にしたのじゃ」
「なるほど、わかりました。じゃあ、その杯はカシスさんにお預けし、必要に応じて使った聖水の分の代金を、私のギルド口座に入れていただけませんか?値段は相場の半分でよろしいので・・」
「タロウ殿がそれでいいのならば、それはたすかる。聖水自体は、薬の薬効を高めるためにあるに越したことはないのでのう」
「いえいえ、人助けになるってお金が入るならこんないいことなないですから (笑)」
(昔の人の言葉に、最高の仕事とは、好きで人のためになり、利益を得るっとあったようなきがする・・)
「しかしそれでは、わしの気がすまんのう。おぬしがよかったらこの薬房で、薬草について学ばんかのう? わしでもある程度はお教えできますぞ」
「本当ですか?ぜひ教えてください」
今回の事により、タロウのいる現実世界とミノスとは重なりあっている部分があることがわかった。
さらに、薬草について学んでいけばペパーミントのほかにも採れる薬草があるかもしれない。
タロウの現実世界からの輸出には、大きな力となる。
そんな打算のもと、タロウは返事をしていた。
「それでは、また明日から神殿にくるとよい」
「はい、また明日。」
こうして、タロウの神殿通いが始まったのだった。