転生したら世界を止めれるブレークポイント打てるデバック能力ありました ブレークポイントで時間を止めてやりたい放題 最強ハーレム勇者の誕生です
三十二歳、職業システムエンジニア。
連日の障害対応の末、俺は会社の机に突っ伏したまま死んだ。
次に目を覚ましたとき、俺は剣と魔法の世界で赤ん坊になっていた。
貴族でも王族でもない。辺境の村の、ごく普通の農家の三男だ。
少し変わっていたのは、十五歳の成人の儀で授かった固有スキルだけだった。
《デバッグ》
神官は首をひねった。
「聞いたことのないスキルですね」
俺には聞き覚えがあった。
嫌というほどあった。
試しに念じると、視界の端に半透明の画面が開いた。
```text
HP 128
MP 34
STAMINA 96
AGE 15
```
自分の状態が変数として見える。
さらに、村の外でゴブリンに襲われたとき、俺は反射的に叫んだ。
「ブレークポイント!」
棍棒が俺の額に触れる寸前、世界が止まった。
鳥も、風も、舞い上がった砂粒も静止している。
視界には処理の流れが表示されていた。
```text
attack_hit()
damage = 18
player.hp -= damage
```
俺は三行目を実行せず、そのまま処理を再開した。
棍棒は確かに俺を殴った。
だが、痛くない。
HPも減っていなかった。
「……これ、時間停止なんかより悪質だな」
それからの人生は、だいたい思いどおりになった。
攻撃されれば、ダメージ処理を止める。
毒を盛られれば、状態異常を付与する前に止める。
疲れたらスタミナを書き戻す。
老化処理は二十歳になったところで無効化した。
暗殺者が寝室へ忍び込んできたこともあるが、俺が眠っている間も設定済みの条件付きブレークポイントは正常に動いた。
```text
BREAK WHEN player.hp decreases
```
目覚めると、短剣を振り下ろした姿勢のまま固まった暗殺者がいた。
世界最強の剣士でも、伝説の魔法使いでも、処理されなければ何も起こせない。
魔王討伐も簡単だった。
魔王の必殺魔法が発動する直前で止め、魔力をゼロにしただけである。
そんな俺にも、ひとつだけ後悔している操作があった。
幼馴染のリナの好意を、ほんの少しだけ上げてしまったことだ。
あれは十六歳のころだった。
リナはいつも俺の後をついてきたが、それが恋愛感情なのか、ただの幼馴染としての親しさなのか分からなかった。
だから出来心で、彼女のパラメータを覗いた。
```text
AFFECTION 090
```
上限は、おそらく999。
たった九十なら、脈はない。
俺は少しだけ落ち込み、それから本当に少しだけ、数値を変更した。
```text
090 → 091
```
一くらいなら誤差だ。
人の心を作り替えたことにはならない。
そう自分に言い聞かせた。
ところが翌日、リナは俺の腕に抱きついてきた。
「どうした?」
「別に。こうしたくなっただけ」
これはまずい。
俺は慌てて数値を戻した。
```text
091 → 090
```
その後、二度と好意の数値には触れなかった。
にもかかわらず、俺の周囲には女性が増え続けた。
魔王討伐の旅に同行した聖女。
救出した王女。
降伏した魔王の娘。
全員の好意を確認したが、表示は似たようなものだった。
```text
リナ 090
聖女 082
王女 074
魔王娘 099
```
誰一人、上限には遠い。
それなのに全員が俺との結婚を望み、誰も身を引こうとしなかった。
俺は彼女たちの意思をパラメータで操作することだけは避けた。
あの一度で懲りていたのだ。
その結果、俺は世界を救った英雄として、四人全員と暮らすことになった。
昼間は平和だった。
問題は夜だった。
翌朝になるたび、HPとスタミナが大きく減っている。
俺はそれぞれの減算処理にブレークポイントを設置した。
```text
BREAK WHEN player.hp decreases
BREAK WHEN player.stamina decreases
```
これでHPもスタミナも減らない。
死ぬことも、疲れることもない。
そう思っていた。
ある朝、俺はベッドから起き上がれなかった。
HPは最大。
スタミナも最大。
毒も病気も検出されない。
なのに指一本動かせない。
視界の隅を、見覚えのないログが流れた。
```text
HIDDEN_PARAMETER depleted
SEIRYOKU = 0
terminate(player)
```
「そんな……パラメータ、知らな……」
存在を知らない変数に、ブレークポイントは置けない。
俺の意識はそこで途切れた。
◇
暗闇の中で、俺は妙な安堵を覚えていた。
HPを減らさず、老化もせず、神にさえ干渉できる人生だった。
だが、あの生活から解放されたのなら、死も悪くない。
転生するにしても、次は静かな人生がいい。
できれば幼馴染も聖女も王女も魔王の娘もいない世界で――。
```text
BREAKPOINT HIT
target: reincarnation.execute()
```
時間が止まった。
いや、死後の世界の処理が止められた。
誰かが暗闇の向こうから歩いてくる。
「見つけました」
リナだった。
「どうして、ここに……」
「死神様に聞きました」
「普通、死神は教えてくれないだろ」
「ですから、教えてくださるように少し権限を変更しました」
彼女が指を動かす。
見たことのない管理画面が、俺の前に開いた。
```text
DEATH_ADMIN RINA
REINCARNATION_ADMIN RINA
DEBUG_PERMISSION ROOT
```
「お前……《デバッグ》を持っていたのか?」
「はい。ずっと」
「同じ権限?」
「同じですよ」
リナはにっこり笑った。
「あなたが私の好意を一つ上げてくださったときも、ちゃんとログで見ていました」
「あれは出来心だった! すぐ戻しただろ!」
「ええ。恥ずかしくなって取り消したんですよね」
「違う!」
「でも、わざわざ私の好意を上げてくださったんです。私のことを愛しているからですよね?」
「一だぞ! たった一!」
「私には十分でした」
新しい画面が開いた。
そこに表示されていた数値を見て、俺は言葉を失った。
```text
RINA.AFFECTION
before 1000000090
after 1001000090
```
「待て。俺が上げたのは一だ」
「はい。ですから嬉しくて、私の中では百万ほど上がりました」
「俺の画面では090としか……」
「表示欄が三桁しかありませんから。四桁目より上は見切れています」
俺が九十だと思っていた数値は、十億と九十だった。
慌てて一を戻したところで、十億九十一が十億九十に戻っただけ。
文字どおり誤差だった。
リナが別の一覧を開く。
```text
聖女 800000082
王女 600000074
魔王娘 900000099
```
「全員そうだったのか……」
「皆さん、あなたを心から愛していますから」
「俺のハーレム生活は、強制イベントじゃなかったのか?」
「いいえ。完全な自由意思です」
そちらの方がよほど恐ろしかった。
「と、とにかく俺は死んだんだ。死んだ人間を連れ戻すのは世界の仕様に反する」
「もう直しました」
「直すな!」
```text
player.alive = true
player.SEIRYOKU = MAX
```
身体に感覚が戻ってくる。
俺は即座に復活処理を止めようとした。
```text
BREAKPOINT SET
target: resurrection
```
だが、その直前で別のブレークポイントが発動した。
```text
BREAKPOINT HIT
owner: RINA
target: player.set_breakpoint()
```
「俺のデバッグ操作にブレークポイントを置いたのか!?」
「あなたなら、そうすると思いました」
同じ権限。
先に仕掛けた方が勝つ。
俺が死亡している間に、リナは必要な仕込みをすべて終えていた。
「また死んで逃げようとしても無駄ですよ」
「逃げるなんて言ってない」
「転生先に私たちがいない世界をご希望でしたよね?」
心も読めるのか。
いや、死者の思考ログまで取得していたのだ。
リナはさらに二つの項目を選択した。
```text
module PLAYER
module RINA
strong_coupling = true
lifecycle.shared = true
destination.shared = true
```
「待て。それを実行するな」
「あなたと私のモジュールを強結合しました」
「今すぐ解除しろ!」
```text
unbind(PLAYER, RINA)
ERROR:
Dependency cannot be removed.
Protected by RINA.
```
「これで何があっても一緒ですからねー」
俺は世界中のあらゆる処理を止められる。
攻撃も、毒も、老化も、死も、神による転生さえも。
しかし俺と同じ権限を持ち、俺より先に手を打ち、好意が十億を超えている幼馴染から逃げる方法だけは、どこにも存在しなかった。
リナは満足そうにうなずくと、ふいに空を見上げた。
その視線は神々の世界よりもさらに上――この物語の外側へ向いていた。
「そうだ。このままでは題名が内容に合いませんね」
彼女はページの外へ手を伸ばした。
「題名も変更しますね」
```text
TITLE UPDATE
旧:
転生したらスキルが『デバッグ』だった件
新:
幼馴染と永久に幸せな人生を送り続けています
```
俺には、それを止める権限すら残されていなかった。
なんでこんなやばい権限を幼馴染に与えたんだ!!!
こんなやばいやつを作った責任を取って何とかしろ!!
……
あ、俺だった……。
幼馴染様のご依頼により、二人は永久に幸せな人生を送り続けています。




