メインは「長芋」
季節は進み、盛夏期を…なんとか超えた…のか?
朝の空気はほんの少し軽くなった気がするのに…昼間はまだ夏の名残が粘りつく。
…まあ、残暑がしつこいのは毎年のことだ。認めたくはないけど…でも、幾分かはマシになった…のか?
天候に勝ち目などあるわけがないし、対策などもできるはずはない。
俺はいつものようにスクーターにまたがり、いつものスーパーに向かう。
さすがに盛夏期に比べると、スクーターに乗っていても極端な暑さは感じない。
スーパーに入り店内をうろつく。とりあえずあてもなくうろうろと歩き回る。
油断せずに後ろをたまに振り返る。
…背後取られたりもするからなぁ
あたりを見回すが、特に「店員さん」の気配はない。
ちょっと拍子抜けはしたものの、俺は特に気にせず野菜コーナーへと向かった。
すると、品出しにいそしんでいる「もう営業部長と言われても納得できちゃう店員さん」がいた。
俺は「忙しいだろうから、と声をかけずに通り過ぎよう」と決めていたが、彼女に先に気づかれてしまった。
「こんにちわ。今日、これ、いいもの入りました。値段も格安ですよ。」と俺に手渡してきたものが…長芋。
俺的には「好きな食べ物」ではあるのだが、調理するとなると「すりおろす」「薄めの輪切りにする」「短冊薄切りにする」からの「わさび醤油」くらいしか思いつかない。
酒のつまみにするのでも、そこそこ大変、まな板も包丁もぬるぬるして困る、というイメージを持つ俺は…渡された長芋をしばらく見つめていた。
…俺にうまく扱える代物じゃないんだよ、これは。
そっと棚に戻そうとした瞬間、彼女は、俺のかごに「少量えのきだけ」をすっと入れた。
さらに「こっちこっち」と精肉コーナーへ誘導され、見たこともないメーカーの分厚いベーコンまで投入される。
そして…見たことも聞いたこともないメーカーが作っている「大きめで分厚いがやっすいベーコン」をかごに入れた。
彼女は「長芋は必要な分だけ切り出して、よく洗ってください。皮は剝かなくていいです。むしろ皮周辺にうまみがある、と聞きますし。輪切りにしますが、厚さのおすすめは1㎝程度です。ベーコンも1㎝程度。厚さをそろえると食べやすくなります。えのきは根っこのほうを少し切り落としたら、手で縦に割いてください。長芋の量にもよりますが…今の長芋を3回に分けて食べるなら、同じように1/3くらい使うといいです。」
…お…おお、わかった…と俺はうなづく。
彼女は「バターを1㎝程度、包丁で切って、フライパンに入れます。溶けたら長芋を入れます。ベーコンも入れます。長芋の裏表がこんがりしてきたら、えのきも入れます。えのきがしんなりしたら、醤油を回しかけます。これだけです」
…もう、ひれ伏すしかない…
長芋は、とろろ的に食べるくらいしかできない、と俺は思っていたが、彼女はあっさりと「メインのおかず」に昇華させる。
「本当にありがとう」と彼女に心からの礼を述べて、俺は帰宅する。
・長芋 1P(15cm程度2本入り) 248円
・よくわからないメーカーの分厚いベーコン 198円
・少量えのき 58円
早速、おすすめに従って調理を開始する。
必要な分だけ長芋を切り出し、よく洗う。厚さとかは別に測る理由もないだろうから、と、大体の見当で切っていく。ベーコンも同様。えのきは手で割いていく。
バターを「エイヤッ」とフライパンに放り込む。
「しゅわあああ」という小気味よい音とともに…バターの香りが、部屋の中に広がっていく。
焦がさないように注意しながらバターを溶かし、そこに長芋をドドンと放り込んで、焦がさないように小刻みにフライパンをゆすりながら焼いていく。そこにベーコン、えのきを足していく。えのきが「秋っぽい色合い」に化けたタイミングを見計らい、醤油を回しかけた…が…手元が滑ってしまい「思ったより多く」かけてしまった
…ああ、やらかしたかな…
と思ったが、これも料理。
せっかくだ、頂こう…やはりちょっと塩気は強い。でも、まずい、ということは決してなく…むしろ「ああ、これはこれで…アリだな」と思えるほどだった。
…これは「秋の訪れを予感させる味」だ
俺はいつもの寶焼酎25度…塩辛さをスポイルさせるために薄めに作り、二杯飲むことにした。
ちなみに翌日…俺は、醤油を小皿にとってフライパンに投入する、という解決策を打ち出した。
単身赴任先の食卓に、ようやく「本当の秋」が訪れた。




