蕪を煮よう
記念すべき最初の料理は、やたらと安く売っていた蕪だった。
蕪の料理の仕方どころか、そのころの俺は「蕪の皮が食えるのか」「葉は食べ物なのか」すら知らないレベル。それでも6つ1束で79円。煮物にするために他の具材を買ったとしても、これは安い。そう思った俺は、ほぼ反射的に飛びついた。
少ない知識を総動員し、記憶をたどる……蕪……かぶ……歴史的魔法少女の弟……いや違う。脱線しながらも、なんとか「和風の煮物」に行き当たった。
和風なら鶏肉が合いそうだ。
そう考えて肉売り場に向かったものの、そこで呆然と立ち尽くすことになる。鶏肉って、こんなに種類あったのか。胸、もも、ささみ、手羽元、手羽先、ひき肉、皮だけのやつまである。量も100gから1kg超えまで幅広い。
スーパーの肉売り場で、おろおろしながら
「こっちかな……いや違うかな……」
とブツクサ言いながら、肉のパックをかごに入れたり戻したりを30分。自分でも挙動不審だと思っていたが、どうやら店員もそう思ったらしい。
気づけば複数の店員が俺の周りに集まっていた。
もちろん当たり障りない声かけだが、「おまわりさん、こいつです」と言われてもおかしくない視線が刺さる。観念して事情を説明すると、店員の中に料理好きの人がいた。
「煮物ならもも肉が扱いやすいですよ」
「蕪は火が通りやすいので、入れるタイミングに注意を」
「この醤油が蕪には合います」
「だしはこれが便利です」
「葉は刻み油揚げと鶏ひき肉で炒め煮にすると、ご飯にも酒にも合いますよ」
思いのほか丁寧に教えてくれた。
52歳、単身赴任、料理初心者。スーパーの肉売り場で迷子になり、店員に助けられる。情けないようで、でもちょっと温かい。そんな“最初の一歩”だった。
さらに店員さんは手書きのメモまで作ってくれた。
だしの取り方ではなく、「慣れないうちはこれがいい」と化学調味料や液体だし、砂糖は角砂糖換算。初心者に寄り添った内容で、本当に助かった。
礼を言うと、店員が申し訳なさそうに
「実は……警察に通報してしまって……すぐ訂正したんですが」
と明かした。
おいおいおいおい! それでか、駐車場に赤い帽子のパンダカラーの車が来たのは!
そんな奇妙な縁でも、縁は縁。
帰宅した俺は、メモ通りに「蕪の煮物」と「蕪の葉と油揚げの炒め煮」を作った。初めてにしては上出来。蕪の大きさが不揃いだったり、油揚げや蕪の葉が電車みたいにつながっていたりするのはご愛敬だ。
蕪79円、油揚げ108円、鶏もも細切れ148円、鶏ひき肉88円。
これに寶焼酎のウーロン茶割。
俺は「十分満足」した。




