邪悪なる鶏
滑り止め軍手だけでスクーターに乗るのが少し厳しく感じる…そんな季節になってきた。
少し早いかな、とも思ったが「世界的な通販会社」で買ったハンドルカバーをスクーターに取り付けて、試運転をした。
……よし。ブレーキもアクセルも問題なし
…見かけ、ダッサイけど、防寒は防風、でもあるし…
ハンドルカバーの具合を確かめつつ「今夜、何を食うかな」と考えた俺は、そのまま「いつものスーパー」へ足を延ばすことにした。
店内に入ると、ほのかに暖かい空気が俺を包む。
その空気に触れて「心なしかほっとする」と感じるくらいには、季節が進んでいる。
特に目的もなく、かごだけ持って店内を歩く。
調味料売り場に差しかかると、聞きなれない言語が耳に飛び込んできた。
…あ、外国人労働者か。
彼らは何事かを話し合っている…その手元には「見慣れないスパイス」がたくさんあった。
「カレーと長距離陸上競技で有名な実業団が販売している」ものも置いてあれば「宇宙刑事のような名前をもつメーカー」のものもある。
以前「宇宙刑事系の粗びきブラックペッパー」は買っていたが、改めて品ぞろえを確認してみることにした。
パッケージが原色系であるうえに、分からない記述、言語、漢字「風味」のオンパレード…そのうえで「何語かもわからない言葉での会話」に囲まれる
…なんだかくらくらするな
そう思った俺がその場を立ち去ろうとしたときに…「宇宙刑事系ではあるが…粗びきブラックペッパーとはまるで違う…赤いパッケージ」が視界に入った。
CAJUN…か、かじゅん?
SEASONING…せ、せ? なに?
よくよく見ると「ケイジャンシーズニングスパイス」とカタカナで表記されていた。
俺は…手に取ってしばらくしげしげとそれを見つめていた。
すると「コレ、ニクニマゼル。ヤク。オイシイ」と片言の日本語でいきなり話しかけられた。
…はい?
と思ってそちらを見ると「世界的なテレビゲームの、土管から出てくるあの赤いオヤジ」を想起させる男が、にっこにこして立っていた。
俺は「オー、アリガト、ベリベリサンクスネ」と精いっぱいカタコト風味で礼を言って、スパイスを握りしめたままその場から逃げるように立ち去った。
…でも、まぁ、せっかくだし
試してみるか、と思った俺は精肉コーナーを歩き回る。
すると「土管のオヤジが、海外産の鶏もも肉の1kgパック」をもって「コレ、コレイチバン」を語りかけてくる。
俺は観念して「オーブラザー、サンクス」と大声を出し握手をしてそれを受け取る。
「これ…どうするかなぁ」
とつぶやきながら店の中を歩いていると…「役員待遇営業本部長級と言われても疑う余地がない店員さん」が声をかけてくる。
かごの中を見て…「玉ねぎ、玉ねぎあったら、ホントよくなりますよ」と言い出した。
「なんでもそうなんですが、この手のものは…混ぜ込む、漬け込む…ここで手を抜かない、がコツなんです」と、熱く語りだした。
…はいっ!
俺は、声を出して返事しそうになるのをこらえながら頷く。
彼女は「フリーザーバックを用意してください。肉は一口大に切ってください。包丁でつついたり、フォークを突き刺して穴をあけるなどすると、味のなじみも火の回りもよくなります。あまり気にしなくてもいいですが、余裕があればそうしてください。もも肉1枚くらいで相当な量ができます。玉ねぎを薄めに切ってフリーザーバックに一緒に入れて、このスパイスをばさーっと入れて、袋の上からよくもんでください」と力説する。
…Yes,ma'am!
そう叫びそうになるのをこらえながら、頷く。
「2~30分かそこらしたら、フライパンで焼くだけです。簡単ですよ…ジャークチキン。お酒にあいます!」
…邪悪ちきん? 邪悪なのか?
俺は敬礼しそうになるのをこらえながら、邪悪については不信感を抱きつつ…とりあえず礼を述べ…会計に向かった。
・鶏もも肉 300g(1kgのはさすがに返した) 278円
・「宇宙刑事系赤いパッケージのスパイス」 1袋 548円
少し冷えが回るキッチンに立ち、包丁をふるう。
鶏もも肉を取り出し、一口大に切っていく。プツッ、プツッと軽い音をさせながら、肉の厚みがある部分にフォークを突き刺していく。
少し涙をこらえながら…ザクザクッと玉ねぎを刻む。
フリーザーバックに、加工済の鶏肉と玉ねぎを入れ「赤い宇宙刑事」を加えて揉み込み、30分ほど放置する。
フライパンを火にかけてあたため、鶏を焼いていく。
鶏肉が「じゅわぁぁぁぁ」と威勢の良い音を立てて焼けていく。
スパイスの香りが一気に広がり「邪悪な香り」が部屋中を支配する。
…邪悪を名乗るだけあるな
俺は出来上がった「邪悪チキン」を皿にとって食べてみた。
「酒、持ってこーい」と叫ぶほどの辛さ、そして破壊力…「邪悪」を名乗るだけのことはある…
俺は、変な感心をしながら、寶焼酎25度ウーロン茶割を準備した。
強めの風に、落ち葉が混ざりだす夜…俺は「邪悪」を堪能した。




