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パスタが奪ったのは「あなたのこころ」~トマトベースEND~

研修所の敷地から、空を眺める。

今までは「本当に憎たらしい」とまで思えた入道雲に支配されていた空が…なんともかわいらしいうろこ雲に覆われるようになった。

いつの間にか…スクーターで街中を走る際に、上着をしっかりと着込むようになった。


…やっと、秋か。


本当に「やっと」ではあったが、季節の移ろいを確実に肌で感じていた。


…だが俺は一人燃えていた。


北関東の地方都市を支配する、秋の心地よい空気を台無しにする勢いで…俺の心は燃え滾っていた。


…リベンジ「城下町のレストランで出てきたあのパスタ」…俺は、一人燃えていた。


あの劇中(TV版)であれば…俺の心境を、タイプライターで小気味よくタイトルコールしているはずだ。

そんなことを考えながら、スクーターで街を駆け抜ける。


ほどなく「いつものスーパー」についた。

俺は、劇中の「黒いボルサリーノを被ったひげ男」を装い、店の中を闊歩した。

いつもはどこからともなく現れる「営業上手の店員さん」が、なぜか今日に限って現れない。

少々悩んだが…ほかの店員さんに「今日はどうしたのか」を尋ねてみたが、「個人情報」とのことで教えてもらうことはできなかった。


そこへ、バックヤードから総菜を山盛りに積んだカートを押してくる「おっかさん」みたいな人が出てきた。


声をかけるかどうか…もちろん躊躇いはあった。


だが、それでも「城下町のレストランで出てきたあのパスタ」には代えられない。

そう思った俺は「ここのナポリタンを再現したい」と、勇気を振り絞って話しかけてみた。

すると「おっかさん」は意外なほどあっさりと…簡単なレシピを…わざわざメモにして俺に渡してくれた。


・トマトピューレ必須

・ウスターソース必須

・トマトケチャップは少量あればいい

・「味はバターで決まります」


その際…大切、と言われたのが「トマトケチャップは、和える目的ではなく、焼く目的。ケチャップをよく焼く。これだけで、本当に変わる。」だった。

あとは、多少取り違えてもなんとかなる部分として…


・トマトピューレはトマトよりも味が濃いので、最初に入れる

・ウスターソースはほんのちょっと、なくてもいいが、あれば入れて

・仕上げ時にバターを少し入れてよく混ぜる


これだけだった。


ほかに食材があれば、そこからも味は出るし、塩味も出る。

ソーセージ、ベーコン、ピーマン、タマネギならなおさら、と教えられる。

俺は深々と頭を下げ、必要なものをすべて購入し、帰宅した。


・トマトピューレ 1瓶(小サイズ)178円

・ウスターソース 1瓶(小サイズ)128円


秋の少し冷えた空気とは対照的に、部屋の中はゆっくりと温まる。

まな板の上にタマネギ、ピーマン、ソーセージ、ベーコンたちを並べ、刻んでいく。


ザク、ザク、と刻む音だけが「単身赴任のキッチン」に響き渡る。

刻んだ素材たちをフライパンへ放り込み、後追いでミートボールをおもむろに投入した。

油が跳ね、素材たちがフライパンの中を駆け回る。


十分に火が通ったところで、俺は“おっかさん”の言葉を思い出す。


「パスタ炒めるときは、トマトピューレを最初に入れるんだよ」


具材をいったん取り出す。

そしてフライパンにトマトピューレを流し込むと、一気に香りが立ち上がり部屋の中に広がっていく。

ここで、主役のパスタに登場…フライパンの重さが一気に増した。


…そして、いよいよ「核心」に触れる瞬間。


ケチャップをほんの少しだけ…フライパンの端へ落とすと、ジュッ、と鋭い音が響く。

そこへウスターソースを、ほんの1〜2滴ほど垂らし、さっと和える。

最後に、バターをひとかけ…鍋肌に落とす。

熱で溶けたそれが…赤いソースをまとったパスタに、ゆっくりじっくり馴染んでいく。


俺は確信をもって「城下町のレストランで出てきたあのパスタ」を皿に移した。

一口目で、すべてがわかった。


…全く別物だ


ついつい頬が緩んでしまう。

俺は、寶焼酎25度のウーロン茶割を片手に「城下町のレストランで出てきたあのパスタ」を一気に平らげた。


窓の外では、大きな月が笑っているように見えた。

まるで、俺のリベンジを祝福するかのようだった。

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