パスタが奪ったのは「あなたのこころ」~総菜の効用~
研修所の敷地には、ミカンとユズの木が植えられている。
遠くから見ると「葉なのか実なのか区別がつかない」ほど実はまだ小さいし、見事なまでの緑色。
でも確かに小さな実は出来ている。
研修所異動から半年近くたつ。
季節は…ゆっくりした足取りではあるが…確かに進んでいる。
俺は食材を買い求めるために、改装工事が終わったであろう「いつものスーパー」へ向かう。
…明かりがついている
…入り口付近に、品が置いてある
…品出しをしている人もいる
俺は少しほっとしながら、店内に向かおうとすると「いつも声をかけてくれる店員さん」が…何かの受付をしているのか…仮設テーブルを出して、席にちょこんと座っている。
通りがかりに顔を見て頭を下げると「あ、ポイントカードの更新があるんですよ。こっち座ってください」と呼び掛けられる。
必要な事項に記載をする。住所は、赴任地ではなく本拠の町。すると店員さんは「あれ? したらこちらには…?」というので…「単身赴任です」と答える。
店員さんは、何か納得したような表情をしながら…「買い物のご様子が、あまりにもおかしいので、ずっと気になっていたんです」と微笑む
………おかっ…おかしい?
……なにがおかしい?
…そりゃ、確かに挙動不審かもしれんし、通報もされたわけだが…おかしい…???
店員さんは「お店の中でも評判なんですよ、お客さんのご様子」と教えてくれる。
・独り者なら総菜を買い求めることが多いのに、総裁は一瞥するだけ。
・保存がきくものなども、あまり興味なさげ。
・生鮮食料品のコーナーで右往左往しながら最低30分。
・買う量は、一人分として見てもせいぜい3~4日分。内容も家族向けとはいいがたい。
・寶焼酎だけは定期的に買って帰る。
・何かしら出てくるはずの「統一感」がない。
…地方都市のスーパー、恐るべし…もしかして俺の買い物履歴、バックヤードの壁に貼られてないだろうな?
大都市圏のスーパーでは、利用客のあまりの多さにこんな観察などしていないはずだ。
彼女はにこっとしながら「お待たせしました。ご登録完了しました。」とポイントカードを返してくる。
そのうえで「500円分お買物券」「300円までのお惣菜2点引換券」も手渡してくる。
「うちは、お惣菜を店舗内で仕込みからやっています。だからとってもおいしい、と思っています。よかったら今日、試してみてください」
…そうか、お惣菜か…店舗内で仕込む…料理に詳しくなるわけだ
…でも、おかしい…おかしかったのか…俺は…
少ししょげ返りながらお総菜コーナーへ向かう。
そこには、揚げ物を中心とした総菜がずらりと並ぶ。そんな中に「中華風甘酢肉団子」「洋風ミートボール」「ナポリタン」がある。
俺は「どこかでなにか間違えた、あのパスタもどき」を思い出しつつ、買い求めた。
・中華風肉団子 1P(4つ入り) 298円(引換券使用で実質0円)
・ナポリタン 1P(大盛) 298円(引換券使用で実質0円)
・洋風ミートボール 1P(4つ入り) 298円
帰宅後、まだほのかに暖かい総菜を、そのまま皿に並べて食べてみる。
中華風肉団子にせよ、洋風ミードボールにせよ「肉を食べているな」という確かな味わいと「中に仕込まれている、刻み込まれた野菜」が醸し出す歯ごたえが俺を揺さぶる。
そのうえでナポリタンを食べてみる。
…ああ、この形のほうがよほど「城下町のレストランで出てきたあのパスタ」に近い。
俺は、寶焼酎25度ウーロン割を飲みながら…「明日、この味によせるための工夫や方法、尋ねてみよう…ついでに…おかしくない買い物の仕方なんかも…」
頬をなでる夜風が「秋本番」を告げていた。




