パスタが奪ったのは「あなたのこころ」
夜になると…月がとてもきれいに見える季節…
つい最近までの「空調なしでは生きていかれないほど」の厳しい暑さは、なりをひそめていた。
夜、窓を開けて空気の入れ替えをするのが「ここちよい」と思える、いい季節。
そんな、ここちよい季節の…とある休日の昼下がり…俺はとあるアニメ長編映画を見ていた。
主人公と相棒がパスタを奪い合う…アレ。
欧州のミニ独立国家の王女様がヒロインの、アレ。
敵役のくせに妙にいとおしくなる初老の警部が「あなたの心です」とかいうと、ヒロインが「はい」とかいって、ヲタを悶絶させた、アレ。
その劇中に出ていた「城下町のレストランで出てきたあのパスタ」が・・・なんか食べてみたくなった。
普段足しげく通っていたあのスーパーは、店舗改装のあおりを受け、今日も臨時休業。
俺は、スクーターに乗って…ポイントカードを作った「別のスーパー」に行ってみた。
劇中のシーンを思い返し、材料を集めてみる。
印象に残るのは「ソーセージ」「ミートボール」「おそらくピーマンと思しき緑色のもの」だが…おそらくこれだけでは成立はしない。
似たようなパスタ、で想像すると「イタリアの都市名が付いているから、てっきりイタリア名物だと思ったら、実は和製だったナポリタン」に行きつく。
そこで俺は、スーパーの総菜コーナーでナポリタンを探してみた。
…タマネギとベーコンが入っている
買い物かごに「ドイツのサッカーチームの名前っぽいソーセージ」「向こうが透けて見えそうなくらい、やっすいぺらっぺらベーコン」「ばら売りのタマネギ1つ」を放り込む。
会計に向かう前、あの長編アニメのシーンを、もう一度回想する。
あのパスタ、確証はないが、おそらくトマトベースの味付け…であれば…ケチャップで代用できるかも…と俺は考えた。
そのうえで「ミートノールをいちいち作れるか」を前提としたとき、そこまでの腕前はない、という判断のもと…俺は「小学生が喜びそうなネーミング」のレトルトミートボールを使うという結論に至った。
…これ、ケチャップベースじゃん
となれば、あとは「味が薄い、もしくは、甘め」を想定して、そこらを補えるものを準備すれば何とかなるんでは、と考えた。
袋詰め乾燥ニンニクと鷹の爪をかごに入れたおれは、最後に「そこそこ太め、ゆであがり10分の、国産ではないパスタ、青っぽい袋のやつ1kg入り」をかごに入れて会計をした。
・「ドイツのサッカーチームの名前っぽいソーセージ」 2Pで398円
・「小学生が喜びそうなネーミングのレトルトミートボール」 2Pで128円
・タマネギ(バラ売り) 1個38円
・「向こうが透けて見えそうなくらいの薄いベーコン」 4Pで198円
・ゆであがり10分の手間が割とかかる「青っぽい袋1㎏入りパスタ」 1P198円
・乾燥ニンニク 98円
・乾燥鷹の爪 198円
基本的な調味料は仮住まいにそこそこそろっている。
後は調理するだけだ。
俺はいそいそと帰宅した。
その日の夜…俺は早速調理に取り組んだ。
大きいフライパンに水を張り、湯をわかす。沸騰したところに塩を加えてパスタをゆでる。
その合間にタマネギとピーマンをほそ切りにし、フライパンに放り込む。
その後、乾燥ニンニクと乾燥鷹の爪とベーコンとソーセージを加え、そこに軽く「自己否定した塩」「宇宙刑事っぽい黒コショウ」を振り、味をつけていく。
…ここまでは順調だ。これだけでも「すでにおかず」として成立している
そう考えた俺は、パスタの茹で上がりを待った。
ほどなく茹で上がったパスタを、フライパンに放り込み、オリーブオイルを回して炒めだす。
オリーブオイルのほのかな香りが立ち、油が回ったところで「炒めた具材」と「小学生が喜びそうなネーミングのレトルトミートボール」を放り込み、しっかりと過熱する。
…色合い、見た目…それっぽい
半ば成功を確信した俺は、鼻歌交じりに…大皿に「あのパスタ」を盛り付ける
そして、食べてみる
…ん?
…んん?
………なんだか、えらくとぼけた味しかしないぞ?
後追いでケチャップなどを加えたり、塩コショウを追加で振ってみたが…どうも根本が違うようだ。
何かが足りない…圧倒的に足りない…何か思い違いをしている
俺は…そんな「どこかでなにか間違えた、あのパスタもどき」を,寶焼酎25度ウーロン茶割で流し込んだ。
月の光が差し込む部屋…寶焼酎25度ウーロン茶割だけは、俺の期待を裏切らなかった。




