第4章:緑をナメてるなら、舌で思い知らせてあげる
ステーキハウスは連日大盛況。冒険者や労働者たちは、仕事終わりに私の店で分厚いステーキを頬張るのが何よりの楽しみになったようだ。それは大変喜ばしいこと。……だが、私には一つ、気になっていることがあった。
「レティさん、また野菜残してるわよ、あそこの席」
手伝いで雇った地元の娘、アンナが小声で教えてくれる。見れば、屈強な冒険者グループの皿には、付け合わせのニンジンやインゲンが綺麗に残されていた。彼らにとって、野菜は肉の添え物、彩りでしかないのだ。偏食の多い彼らの健康状態も気になるところ。
「ふふ、いいでしょう。緑をナメてるなら、舌で思い知らせてあげる」
私は決意した。野菜嫌いを撲滅し、彼らに野菜の本当の美味しさを教える革命を。
数日後、私は店の隅に新たなコーナーを設置した。大きな木製の器に、色とりどりの野菜が山盛りになっている。
【本日より開始! ご自由にどうぞ! サラダバー】
「さ、らだばー……?」
「なんだそりゃ。草の食い放題か?」
怪訝な顔をする常連客たちに、私はにっこりと微笑んだ。
「ええ。ステーキをご注文のお客様は、こちらの野菜が食べ放題ですわ。ご自分の好きな野菜を、好きなだけお皿に取ってくださいな」
ポイントは“選べる楽しさ”。ただ出される付け合わせではなく、自分で選ぶことで、それは「自分のためのサラダ」になる。
しかし、ただ野菜を並べただけでは、彼らの心は動かない。ここにこそ、私のスキルの見せ所だ。
並べられたレタス、トマト、キュウリ、ピーマン……これらは全て、私が【食材進化】を施した“進化野菜”。
レタスは、シャキシャキとした食感を極限まで高め、みずみずしさが口いっぱいに広がる。トマトは、酸味と甘みのバランスを黄金比に調整。キュウリは青臭さを消し、爽やかな風味だけを残した。そして、子供たちが嫌うピーマンは、苦味成分を大幅にカットし、代わりに肉料理に合うほのかな甘みを加えている。
「ふん、どうせ草は草だろ」
疑い半分でサラダを口にした冒険者の一人が、目を丸くした。
「なっ!? このトマト、果物みたいに甘いぞ!」「ピーマンが苦くない!」「このレタス、無限に食える!」
驚きは、まだ終わらない。私はサラダバーの隣に、数種類のドレッシングを置いた。これも全て自家製だ。
「こちらは、ハーブと岩塩を魔導オイルに漬け込んだ『魔法の塩ドレッシング』。こっちは、すりおろした玉ねぎと果物を熟成させた『オニオンフルーツドレッシング』ですわ」
魔導の力でオイルと水分を完全に乳化させ、滑らかな口当たりを実現したドレッシング。それが進化野菜のポテンシャルをさらに引き出す。
酸味、塩味、甘味、ハーブの香り……複雑ながらも完璧に調和した味わいが、野菜本来のうまみを何倍にも増幅させるのだ。
その日から、『レティーナ』では奇妙な光景が見られるようになった。屈強な男たちが、ステーキが来る前に山盛りのサラダをおかわりし、夢中で頬張っているのだ。
「レティさん、俺、野菜が好きになったかもしれねえ……」
「最近、体の調子がいいんだよな!」
野菜嫌いは、野菜の本当の美味しさを知らないだけ。その固定観念を、私は味覚の衝撃で打ち砕いた。
ステーキハウスは、いつしか「最高の野菜が食べられる店」としても評判になり、客層はさらに広がっていく。私の革命は、まだ始まったばかりだ。




