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『悪役令嬢、ステーキハウスで世界を平らげる』~追放されたけど、味覚チートと経営才覚で元婚約者も国王も胃袋から屈服させます~  作者: 緋村ルナ


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第2章:このチート、食で使うと最強なのよ

 辺境の町エルベルグは、噂に違わぬ場所だった。土埃の舞う道を屈強な冒険者や鉱山労働者が行き交い、その顔には労働の疲れと、ささやかな楽しみを求める色が浮かんでいる。うん、実にいい。私のステーキを最初に味わうべきは、こういう見栄や体裁とは無縁の人々だ。


 町外れに安く借りた小屋の厨房で、私は自分のスキルと向き合っていた。

 神様から与えられた、私の二つの宝物。


 一つは、【味覚解析】。

 口にしたものの味、香り、食感、成分、すべてを瞬時にデータ化できるスキル。どの部位の肉が、どんな香辛料と合わさり、どれくらいの火加減で最高の味になるか。私には全て“視える”のだ。


 もう一つは、【食材進化】。

 解析したデータに基づき、食材そのものを理想の状態へと“進化”させるスキル。例えばこの、エルベルグで手に入れた安価な赤身肉。このままでは硬くて筋っぽいだけれど……。


「スキル発動、【食材進化】」


 私が肉に手をかざし、心の中で念じる。脳内に浮かぶのは、きめ細やかなサシが入り、うまみ成分であるアミノ酸が豊富で、熱を加えることで絶妙な香りを放つ理想の肉の姿。すると、私の手の中にある肉が淡い光を放ち、その質をみるみる変えていく。筋は解れて柔らかくなり、赤身の間には美しい霜降りが生まれる。完璧なステーキ用の肉の完成だ。


「ふふっ、これよこれ。このチート、食で使うと最強なのよ」


 さらに、私にはもう一つ、地味ながら強力なスキルがある。【調理補助(遠隔可)】。複数の調理器具を同時に、かつ精密に操作できるスキルだ。これがあれば、一人でも大勢の客を捌くことができる。


 私は早速、進化した肉を厚切りにし、熱した鉄板の上に乗せた。


 ジュウウウウウッ!


 暴力的なまでの音と共に、魅惑的な香りが厨房に立ち込める。脂が溶け出す融点、メイラード反応が最大化するタイミング、全てが私の頭の中の設計図通りに進んでいく。塩と、この地方で採れる香りの良い黒胡椒を振るだけ。最高の素材に、余計な小細工は不要だ。


「貴族料理? いいえ、本物はもっと“がっつける”ものよ」


 王宮で出てきた、ソースで誤魔化された薄っぺらいステーキを思い出し、私は鼻で笑った。あれは料理じゃない。ただの飾りだ。本物の肉料理とは、人が本能で求める、野性的で、圧倒的な満足感を与えるものでなければ。


 焼き上がったステーキを切り分け、一切れを口に運ぶ。

 ……完璧。

 表面はカリッと香ばしく、噛みしめるとじゅわっと肉汁が溢れ出す。赤身の濃厚なうまみと、脂の甘みが口の中で溶け合い、絶妙なハーモニーを奏でる。飲み込んだ後も、幸せな余韻が舌の上に長く続く。


 これならいける。いや、これなら世界が獲れる。

 私は窓の外を見た。エルベルグの町の人々が、今日も疲れた顔で酒場へと吸い込まれていく。待っていてくださいな。もうすぐ、あなた方がまだ知らない、本当の幸福を私が届けてあげるから。


「さあ、店の準備を始めましょう!」


 悪役令嬢の逆襲は、一片のステーキから。最高の船出になりそうだ。

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