第11章:肉の前では、平民も貴族も平等ですわよ?
アルフォンス王太子の来店からほどなくして、今度は『レティーナ』王都店に、王国で最も高貴な人物が訪れた。国王陛下、その人である。
予告なしの訪問に、店内は騒然となった。しかし国王陛下は威厳のある手つきでそれを制すると、私に向かってにこやかに語りかけた。
「君が、レティシア・グランチェスター嬢か。噂はかねがね聞いておる。今日は、その手腕とやらを、この舌で確かめさせてもらいに来た」
「……国王陛下。身に余る光栄です」
私は深々と頭を下げた。隣に立つセオドア殿下が、誇らしげな顔で頷いている。
国王陛下は、他の客と同じようにカウンター席に座り、同じようにメニューからステーキを選んだ。そして、私が焼いたステーキを、サラダを、ドリンクを、そしてデザートのソフトクリームまで、全てを堪能された。
食事が終わると、国王陛下は満足げに息をつき、私に言った。
「……見事だ。実に見事だ、レティシア嬢。この娘のステーキこそ、我が王国の新しい顔だ!」
その声は、店内にいる全ての客に聞こえるほど大きく、力強かった。
「君は、美味い料理を提供するだけではない。新たな農業の形を支援し、多くの雇用を創出し、民の健康を増進させた。その功績は、騎士の武勲にも劣らぬ、偉大なものだ」
数日後、私は王城に正式に招待された。かつて追放された場所とは違う、盛大な式典の間で。
そこで私は、国王陛下から直々に、王国最高の名誉とされる『青獅子勲章』を授与された。農業支援、雇用創出、健康増進の三分野における、国家への多大な貢献を称える、という名目で。
貴族たちが驚きと、少しの嫉妬が混じった目で見つめる中、私は勲章を受け取った。国王陛下が、マイクを通じて私にスピーチを促す。
私は一歩前に出て、集まった王侯貴族たちを、そしてその向こうにいるであろう国民たちを見渡すようにして、口を開いた。
私の言葉は、ただひとつ。シンプルで、私の信念そのものだった。
「身に余る栄誉、恐縮です。ですが、私が成し遂げたことなど、大したことではございません。ただ、美味しいお肉を焼いただけ。なぜなら――」
私はそこで一度言葉を切り、悪戯っぽく微笑んでみせた。かつて、悪役令嬢と呼ばれた頃のように。
「平民も貴族も、王族ですらも。熱々の肉の前では、ただの腹ぺこ。皆、平等ですわよ?」
その言葉に、会場は一瞬静まりかえり、次の瞬間、どっと大きな笑いと拍手に包まれた。国王陛下も、腹を抱えて笑っている。
そうだ。これが私の答え。身分も立場も関係ない。美味しいものを前にすれば、人は誰もが笑顔になる。その単純な真実を、私はこの世界に証明してみせたのだ。




