自転車
パチ屋で知り合った他学部の先輩が後輩の□の自転車を祓えると言うので頼んだ。
後輩の□は深夜後輩と各自転車でコンビニへ出掛け、買い物後後輩が駐輪場でスマホゲーのガチャを回し始めた所アイスが融けると帰路を先行し車に跳ねられたそう。
自転車は前輪を掠ってほぼ無傷。放り出された□は対向トラック荷台のワイヤーに首を断たれて死亡。
以来自転車が幾度廃棄せど必ず夜間に帰宅して、朝家族が玄関で目撃するまで両立スタンドで浮いた後輪をペダル毎元気に回転させるらしい。
□が自転車で待機する時良くやっていたと言う。
深夜。
先輩と空き地へ赴くと、ブロック塀の内角に、昼貰って停めておいた件の自転車と後輩が待っている。
自転車の浮いた後輪はしゃこんしゃこんとペダル毎元気に回り、左右交互に踏み下ろす明らかな躍動がある物の漕ぎ手の姿は見て取れない。
先輩は着くなり聞いて当然の調子で「これから私△がこの自転車を祓います」と宣い次の様に続ける。
漕ぎ手たる□は懇ろに葬られ世を去る支度が出来ているが突如苦痛なく死んだので些か実感が無い。
故に現場を目の当たりにした後輩の悔恨に引き止められ、待たねば帰らねば慰めねばの一心で今日へ至っている。
奇しくも“自動車事故で断たれて熱く赤い血を噴き道を回転する自転車の漕ぎ手の首”は火、首、車の心象に集約される。
それらは本邦の妖怪“火車”“輪入道”に通じ何方も死者を連れゆく性質を持つ。
よって今正に後輩の無念に応じて回転する□の自転車を火で焼き浄める事で、これら心象を死者を連れゆくものとして具象化する。
「このチャリその物を死者を連れゆく妖怪と見做して火で送り、以て祓いと為すって訳だ。じゃあやります」
言うが早いか先輩は持ち込んだポリタンクの中身をだっぱだっぱと自転車に掛け取り出したマッチで火を付ける。
赤々と燃え出す自転車の回り続ける後輪の中央に、軈てくねりと捻り出てぱちぱちと瞬きし物珍し気に辺りを見回す□と思しき顔が見えた。
□は後輩を見付けると喜んで呼び掛けたようだった。
声なき招きに応じて後輩はふらりと自転車へ覆い被さり、めらめら燃え上がって透けて消え前輪の中に現れる。
引導を渡されたきょうだいは、空へ高々伸び上がった最後の炎の揺らめきに寄り添って昇天した。
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□の死と幾度も帰る自転車を苦に自死したらしい後輩。
どこで知ったか見える自分の周りを彷徨くので困っていた。
先輩には礼として2万取られた。
終.




