第2章
幸せな家庭生活
教室の窓から差し込む朝の光が、小さなコーシンの頬を柔らかく照らしていた。彼は机の上に広げたノートに集中しようとしていたが、背後から聞こえた嘲るような笑い声に気を削がれてしまった。
「また変なこと書いてるんじゃない、コーシン?」
「本気?こんなの読めないよ」
クラスメートたちの冷やかしが教室の壁に反響し、その一言一言がコーシンの胸を締め付けた。彼は唇を噛み、震える手でノートを静かに閉じる。誰にも心の声を理解してもらえない孤独と、自分自身を責める後悔が、深く彼の心を覆っていた。
あの日から、コーシンは同年代の子どもたちと距離を置くようになった。人に心を開かず、自分の感情を内に秘めることで自分を守ろうとしたのだ。それでも、その孤独な時間が彼を強くし、後に訪れる数々の困難を乗り越える力となっていった。
---------------------------------------------------
――数ヶ月後――
長い仕事を終えて帰宅したトキワは、重い足取りで玄関を開け、リビングへと入った。その目に飛び込んできたのは、想像もしなかったカオスな光景だった。
カラフルなキャンディの包み紙が床中に散らばり、ぬいぐるみやブロックがソファの上に無造作に置かれている。キッチンテーブルの上には、半分食べかけのチョコレートケーキとお菓子が乱雑に置かれていた。トキワは思わず顔をしかめ、深いため息をついた。
「……これは一体……?」
ポケットからスマートフォンを取り出し、妻のミスラに電話をかけた。
「もしもし、ミスラ?今どこにいるんだ?」
「ごめんなさい、私はまだスーパーで買い物しているの。あと一時間くらいかかると思うわ」
「そっか……できるだけ早く帰ってきてくれ。お腹が空いてるんだ」
「わかったわ。でも、もし遅くなったら、お金を持ってジーローと一緒にレストランに行ってちょうだい」
「レストランって……仕事から帰ってきたばかりで、クタクタなんだけど……」
夫の不満を察したミスラは、優しい声で続けた。
「うふふ……ごめんね。できるだけ早く帰るから。愛してるわ、じゃあね」
その一言で、トキワの苛立ちは少し和らいだ。
電話が切れると、玄関のドアが開きました。次郎は父親を抱きしめながら、元気いっぱいに現れました。
「……ジロ、これを全部やったの?」
「うん!楽しかったよ!お菓子もいっぱい食べた!」
トキワは額を押さえて深く息を吐いた。
「わかった…お母さんが帰ってくる前に全部片付けなさい。君が責任者なんだ。」
ジーローは少し困ったような顔をしたが、すぐに真剣な表情になってうなずいた。
「うん!僕、やる!」
「よし、一緒にやろう」
ふたりは手分けして散らかったおもちゃやゴミを片付け始めた。ジーローはブロックをおもちゃ箱に戻し、トキワはケーキの皿を片付けてテーブルをきれいに拭いた。
――一時間後――
リビングは元通りの整った空間へと戻っていた。ふたりがソファに腰を下ろして休んでいると、玄関からミスラの声が聞こえた。
「ただいまー」
両手に買い物袋を抱えて彼女は戻ってきた。リビングの状態を見た彼女の目は驚きで大きく見開かれ、やがて微笑みに変わった。
「な部屋でした。あなたが責任を取ってくれて嬉しいです。」
「お父さんと一緒に片付けたんだ!」
ジーローは胸を張って答えた。
ミスラはジーローの頭を優しく撫で、トキワにも微笑みかけた。
「いや、ジーローが頑張ってくれたんだ」
するとミスラはため息をついて笑いました。
「ハハハ 二人でメイド服を着て家事をするのはどうですか?」
冗談のつもりだったが、疲れ切ったトキワは真に受けてしまい、大声を上げた。
「ミスラァァァァ!!」
すると、次郎が後ろからやって来て、父親を抱きしめました。
「落ち着いて、パパ。ママは冗談だよ。それよりさ、ごはんはいつできるの?お腹ぺこぺこだよ」
「そうだな……今日は料理する時間がなかったから、少しレストランでテイクアウトしてきたんだ」
「 よかった、食事の準備ができたので、ようやく寝られます。もう沸騰するまで待つ必要はありません。」
食事を終えた後、三人とも寝に行った。
二人は平和に眠ったが、ジロウだけは恐ろしい悪夢を見てしまった。
巨大な爆発が宇宙を満たし、空間はポータルに囲まれていた。そのポータルはブラックホールで、ジロウを飲み込み、果てしない遠くへ連れ去った。夢が終わった後、ジロウは見たものに怯えて目を覚ました。
翌朝、ジロウはいつもより静かに朝食の席に着いた。顔色は悪く、目にはまだ恐怖の名残があった。
これに気づいたミトラは息子の次郎に静かに尋ねた。
「ジロウ、大丈夫?ちゃんと眠れたの?」
ジロウは小さく首を振った。
「うん…変な夢を見たんだ。全部ぐちゃぐちゃで、黒い大きな穴みたいなのがあって、そこに落ちていったんだ。」
父のトキワは新聞を置き、真剣な表情で息子を見つめた。
「それって、どんな感じだった?」
ジロウは言葉を探すようにして答えた。
「 よく分かりません。しかし、私は中に引き込まれているように感じ、この夢が何を意味するのか分かりませんでした。」
ミスラはジロウの肩に手を添え、優しく微笑んだ。
「大丈夫よ。ただの夢よ。心配しないで」
けれどもトキワは、胸の奥に小さな違和感を覚えていた。ジロウの語った夢は、ただの空想とは思えなかった。