生ききる
駄目だ。
腹が減り過ぎて、寝られない。
洞窟の外へ目線を投げると、既に綺麗な星明りが鮮明に見えるほど、夜は更けていた。
だというのに、俺は一睡もできないまま、身体をただ横にしていた。
そうしてじっとしていると、この身体に寄り添うモノがある。
ウジ虫だ。
洞窟の奥で腐っている死体に大量に湧いているウジ虫が、俺の事も死体だと思って寄ってくるのだ。
その度にウジ虫を払いのけ、いつか俺はこいつらに食われるのだろうか、という恐怖が過る。
このまま食事にありつけなければ、きっと俺はこいつらの餌になる。
そういう意味では、生きている間に俺に近づくウジ虫は賢い。
そうやって予約しておかなければ、他の生物に取られてしまうかもしれないのだから。
大人気だな、俺。
明日こそ、食べられるものを探そう。
そうだ、あの狼に襲われた川。
あそこには小魚がいた。
釣り竿でもつくって、このウジ虫を釣餌にして。
ちょうど杖がここにはあるし、これで釣り竿も作れるだろう。
まぁまた襲われるかもしれないが…食えなきゃどっちにしろ死ぬんだ。
うん、そうしよう。
…ステータス画面みたいなものがある世界で、なんで俺はこんなガチ無人島サバイバルみたいな事しているんだ?
冷静になってみると馬鹿らしくて、やっと眠れそうな気がした。
けれど、それを全身を這うウジ虫の不快感が阻害する。
「ギィ!」
バッと起き上がり、俺は全身をはたいてウジ虫を剥がす。
いくらなんでも予約殺到し過ぎだろ!
まだ俺は死んでない。絶対に死なない。
そんな怒りが、俺にある発想を呼び起こさせた。
食べれば、いいのでは?
食われる前に、俺がこのウジ虫どもを食えば…
いや、いやいやいや、正気か、俺?
こんな、腐った死体を食っている気色悪い虫を、食うのか?
「ァァ…」
でも……生きているのなら、きっと食べられる。
完全に常軌を逸した思考だ。
正気じゃない。
この極限状態で冷静な判断が出来ていない。
そんな事はわかっている。
だが、それでも生きたい。
食欲なんて上等なモノではなく、生の本能が俺の思考を支配し、気付けば身体に這うウジ虫をつまんで、口に入れていた。
口の中でプチっとはじけて、一気に腐臭と生臭さ、酸っぱいえぐみとジビエのような獣臭さが口と鼻に広がる。
「ゲェ!ゲェェ!」
思わずえずき、何も入っていない胃袋から胃液が逆流してきた。
それを必死に抑えこみ、全て飲み込む。
さながら鮮度の終わった生魚と、カビがたっぷり生えたヨーグルトを一緒に飲んだような不快感。
だが、吐きはしなかった。
無理やり抑え込めた。
なら、食べられる。
俺は歩き出し、死体の前に行く。
そこには死体を全て覆いつくすほど大量のウジ虫が湧いていた。
これが全てハエの幼虫だと思うと、集合体恐怖症を持っていない俺でさえ、トラウマになりそうな光景だ。
それでも俺はウジ虫が散らばる地面に膝をつき、ゆっくりと大量のウジ虫の中に手を入れる。
両手に掴んだウジ虫を、そのまま口に向かって運び入れた。
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Race:ロー・ゴブリン
Name:無し
Level:3
Status:
HP(5/12) MP(1/1) SP4/4)
Attack(2) Defense(2) Speed(5)
Critical(12) Luck(3) Skill(2)
《種族スキル》
〈呪い耐性Lv.1〉〈休眠Lv.2〉
《通常スキル》
〈悪食Lv.9〉〈痛み耐性Lv.3〉〈毒耐性Lv.1〉
《固有スキル》
──
《Extraスキル》
──
《称号》
〈腐食のエキスパート〉
〈腐食のエキスパート〉
称号概要
完全に腐食した食物を消化することで与えられる称号。
経験値を獲得する。〈悪食Lv.1〉〈毒耐性Lv.1〉を獲得する。既に保有していた場合、スキルレベルの経験値に変換される。
腐食した食物を摂取すると経験値を獲得できるようになる。
〈毒耐性〉
取得スキル概要
毒効果を長期間受ける事で確率で獲得する。
毒に対してわずかな耐性を得る。
通常スキルのため、あらゆる種族が獲得可能。