雨と小鬼
雨音で目が覚めた。
目を開けた瞬間、鼻につく腐臭と雨の肌寒さ。
あぁ、寒いな。
「フギィ…」
独り言を呟こうとして、口から出てきた気持ち悪い声で自分がゴブリンに転生した事を思い出す。
手には相変わらず杖を抱えたまま、俺はぐっすり眠っていたようだ。
顔を上げて洞窟の外を見ると、篠突く雨がのべつ幕なしに降っている。
その風景をぼんやりと眺めていると、自らの腹の虫が鳴いた。
腹も減ったし、喉も乾いた。
この世界で目覚めてから丸一日、あの腐った池の水しか口にしていない。
せっかく雨が降っているのだ。
これを飲もう。
そう考えて起き上がると、腕やケツに痛みが走る。
そうだ。俺、傷だらけだったんだ。
こんな状態でよく一晩越せたもんだよ。
しかし、あれほど血を滴らせていた左腕の出血が、もう止まっていた。
流石にゴブリンだけあって、傷の治りは早いのか?
疑問に思いながらも洞窟から出ると、俺は辺りに溜まっていた水溜りの前に傅く。
直接口をつけ、ごくごくと喉を鳴らして泥水を飲んでいく。
また腹を壊すかもしれないが、まだ水が溜まって時間が経っていない。
そこまで汚くはないだろう。
いや、汚いな。まずいし。
でも飲むしかないので、俺は喉の渇きに抗う事無く大量に飲んだ。
さて、次は食料だが…どうしよう。
ここが異世界である以上、何が食べられるのかなんて当然俺にはわからない。
だからってここで途方に暮れていても餓死するだけだ。
何か…そうだな…キノコ、は毒がこわいし、山菜もよくわからん。
となると、カエルとか、虫か?
わからないなりに、食べられるものを手探りで探していくしかない。
こんなわけもわからず、誰に知られる事もなく、森の中で名無しのゴブリンのまま死んでたまるか。
絶対に生き残ってやる。
そう息巻いて、洞窟を中心に散策する事八時間。
何も、なかった。
「アププ……」
まぁ、雨が降っているしね。
生き物がいないのも仕方がない。
でも、もしこれが雨に関係なく、この世界で普通の事だったら?
そもそもゴブリンとか、よくわからないクソデカ狼とかいるんだし、生態系自体が俺の知っているものと大きく異なるんじゃ?
嫌な想像ばかりが膨らむ。
俺の知っているゲームに出てくるようなゴブリンは、人を襲う。
実際、俺は人に襲われたわけで、それは普段からゴブリンが人を襲っているからだろう。
だとすれば、ゴブリンの本来の食事って…
いやいやいや。
必死に頭を振って嫌な思考を追い払い、悪天候も相まって再び空が暗くなってきたので、洞窟に戻る。
この踏みしめる土を掘れば、ミミズくらいはいるんだろうか。
遠くの方から何かしらの鳴き声は聞こえるのだが、それが何なのかはわからない。
あの狼か、もっと恐ろしい怪物か。
ここは、とんでもない魔境なのかもしれない。
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Race:ロー・ゴブリン
Name:無し
Level:1
Status:
HP(4/10) MP(1/1) SP1/2)
Attack(1) Defense(1) Speed(3)
Critical(10) Luck(2) Skill(1)
《種族スキル》
〈呪い耐性Lv.1〉〈休眠Lv.1〉
《通常スキル》
〈悪食Lv.2〉〈痛み耐性Lv.2〉
《固有スキル》
──
《Extraスキル》
──
《称号》
──
〈休眠〉
取得スキル概要
死の縁を彷徨う事で確率により取得できる。アクティブスキルであり、発動すると通常よりも深い眠りにつき、最低でも24時間以上目覚めない。そのかわりに、全ての消費パラメータを回復させる。ただし、空腹値などの生育パラメータには影響しない。
種族スキルであり、魔族性の種族しか獲得できない。