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最後の策




 俺とアウラ、そして非常食の二人と一匹、いや、二匹と一人は急峻な獣道を上り、崖上までたどり着いた。


「はぁ…はぁ…高台まで来たはいいものの、ここからじゃとても……さっきまで居た場所は見えないね…」


 アウラは魔法使いだ。

 体力があまりないのだろう。

 膝に両手をおいて息も絶え絶えであったが、どうやら俺の身体はかなり成長しているようで、まったく心拍数は上がっていない。

 そのまま身体を少し乗り出し、さきほどまで居た地点へ目を凝らす。


「10…12…16人か」


「え…!?見えるの!?」


「まぁ…目を凝らせばな」


「凝らせばって…そんな次元じゃないけどなぁ…」


 ここからでも狙撃は出来る。

 だが、相手方の狙いも、規模もまだわからない。


 俺はさらに視線を移動させ、村の付近や小川の近くまで観察する。

 ここから数十キロは離れているが、問題なく見る事が出来た。


「村付近にも、甲冑を着た兵隊がうじゃうじゃいるな。どうやら証拠を隠滅しに戻ってきたみたいだ」


「村まで見えるの…?私にはまったく…」


 隣で必死に目を細めて注視しているアウラの姿が横目で見えた。

 自分の目が良くなったことは気付いていたが、改めて一般的な人と比べると、大分人外の視力になっているようだ。


「ここから見渡すだけでも100人以上は確認できる。鎧も全て統一されているし、統率の練度も高い。何処かの軍であろう事は確実だな」


「そんな、馬鹿な。こんな辺鄙で舗装もされてない場所を、軍隊が進軍できるはずないよ。エルフの情勢は安定していて、エルフ同士の戦争なんて考えられないし」


「なら、人間か魔族じゃないか?」


「それこそ、もっとあり得ないよ。ここは魔境の中心地。とても、進駐なんて出来ないはず…」


「だが、現に軍隊がそこにいる。村だって焼かれた。君の中では、これはどう説明できる?」


 人族も魔族も、俺には大した知識がない。

 俺の中にある知識は全て、呪いのアックスによって強制的にみせられた曖昧な記憶のみ。

 あれが何年、何十年、あるいは何百年前の出来事だったのかも定かではない。

 なのでアウラに意見を仰ぐと、彼女は顎に手を当てて真剣に思慮を巡らせた。


「あるいは…最悪の可能性だけど…」


 そう前置きをする彼女の額には、冷汗が浮かぶ。


「例えば、勇者のユニークスキルなら……」


「というと?」


「魔族は、そんなにエルフに関心がない。だから魔王軍が何かしてくるっていうのは考えづらいけど……人族はエルフの排斥に物凄く意欲的で、この魔境の攻略にも関心が高い。だから、勇者のユニークスキルを使って軍隊をここに差し向けたのかも…」


「軍隊を、スキルで差し向ける?そんな事が可能なのか?」


「わからないよ。勇者のユニークスキルなんてトップシークレットだから。でも、この現実に整合性を取れる可能性は、それくらいしかない。勇者なら、何を実現しても不思議じゃない」


「勇者っていうのは、そんな異次元の存在なのか…」


 人族がエルフ殲滅のため、軍隊を差し向けた。


 もしこれが本当なら、ここは非常に危険だ。

 下手をすれば、わけもわからない戦争に巻き込まれかねない。

 そんな俺の危機感は、アウラにも同様にあるようだった。


「まずいよ。あれが人族の軍隊なら、最悪、勇者もいるかもしれない。勇者の感知スキルなら、どこまで行っても安全とは言い切れない…!」


「だが森を闇雲に動くのも、得策ではないだろうな…」


「……私に、考えがある」


「…?」


「迷宮に、入ろう」


 俺が離脱の算段を考えていると、アウラは妙な提案をした。






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