表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/184

一人の夜に



 この世界に来てから、随分と日が経った。


 未だに何故俺がこの世界に来たのか、何故ゴブリンになったのか、そもそもこの世界は何なのか。


 何もわかっていない。


 サバイバルにも慣れて、狼という脅威も遠ざけた今、改めて自分の状況を振り返ってみると、わからない事だらけだ。

 文字や言葉がわからないというのが致命的で、せっかくステータスを表示できても理解が出来ない。

 と、俺は空中に展開されたステータスのような文字列をぼんやりと眺める。


 その画面にはいくつもセクションがあり、しかしどのページを見ても俺にわかる言葉はない。

 けれど、言葉なのだから規則性があるはずだ。

 何とか言語を紐解いて、理解できるようになれないものか。


 などと考えながら、最近は寝る前にぼんやりとこの画面を見るのが日課になっていた。

 そうやって観察していたからこそわかったのだが、やはり俺が進化する度に知らない文字が追加されている。

 恐らく、これが新たに獲得したスキルとか能力なのだろう。

 そこをタップすれば、多分スキルの説明なのであろう文字列が表示される。


 これがわかれば、もう少し生きやすくなるんだが…


「アプゥ…」


 気持ち悪いため息を吐いて画面を閉じると、皮を鞣して作った毛布の中に非常食が潜り込んできた。


 非常食は潜り込んでくるなり俺の顔を舐め、大きくなってきたその身体で俺に覆いかぶさる。

 重たいので横にずれ、焚火の音を聞きながら無心で非常食を撫でた。


 暖かい。


 俺よりも少し体温が高い非常食は、抱き枕に最高だ。

 毎日のように川で水浴びをさせているからある程度清潔だし、手櫛で梳いているから毛並みも綺麗だ。

 この冷たく非常な異世界で、俺はいつの間にか温もりというものに飢えていた。


 そのせいだろう。

 もう非常食を食べようとか、殺そうとかいう気持ちはどこにもなくなった。

 むしろ、こいつを家族のように想い、守りたいとさえ感じている。


 今日のような冷え込む一人の夜に、寄り添うものがウジ虫ではなく、無償の愛をくれる動物だったなら、誰だってそう感じるはずだ。


 過酷に過ぎる転生だったが、一つ、救いを得たような気がする。


 明日もまずは川へ行き、存分に非常食を遊ばせてやろう。


 自分一人のために生きるよりも、何かのために生きる方がずっと生きる事に価値を感じる気がする。


 そんな風に思いながら、俺は非常食を抱きしめて眠った。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ