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驕れるものは久しからず



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 魔境には、各エリアにそれぞれを牛耳る「主」がいた。

 人族と魔族の間に広がる魔境は、その中心に行けば行くほど「深層」と呼ばれ、未知の怪物どもに汚染されていく。

 故にこそ、この人族の領域から最も近いエリアの主は、「絶駆狼王」の名で知られる狼王(ウルフキング)程度の、正直言ってそれほど強くはない種族にでも務まっていた。


 そんな狼王は事前に自らの臭いを木に付け、何者も侵入してこないようテリトリーを主張している。

 そしてその地点を巡回し、そこに異常がないかを確認するのが日課となっていた。


 狼王の臭いがあるとなると、ほとんどの動物はその領域を遠ざける。

 とあるゴブリンが生き物がいない事を嘆いていたが、実はそれは狼王による仕業であった。


 では、そんな狼王自身は、その食事をどうしているのか?


 それは簡単で、どんなに臭いをつけておこうと一定数の魔物や動物がふとしたきっかけで、領域に踏み入る。

 それを狼王固有スキル〈疾駆〉でもって急接近し、一口で平らげる。


 この習性のおかげで、本来非常に危険なはずの魔境のすぐそばに、人族の村が立っている。

 かねてより人族の村には狼王は守り神として祭られ、その側に住むと魔物が出現しなくなると伝えられており、その逸話は魔境であっても効力を発揮した。


 しかし、守り神としての側面も持つ狼王は、最近機嫌が悪かった。


 それはひとえに、食い損ねたゴブリンのせいだ。


 矮小で卑陋、普段であれば頭から一飲みにできようはずの雑魚に、接近を悟られ攻撃を防がれ、あまつさえその一撃を目に受けてしまった。


 主としての矜持を傷つけられ、自らのテリトリーで今もなおゴブリンがのうのうと生きている。


 これこそが不快の元凶。


 しかし、小川にて狼王は一度、ゴブリンに再会した。


 その時、今度こそかみ殺そうと〈疾駆〉を発動しようとした狼王は、即座にそれが適切でないと判断した。


 何故なら、既にゴブリンは進化していたから。


 その身体には、狼王でさえ見た事のない異様な紋様と禍々しいオーラ。


 恐らく何か条件を満たし、危険な特殊進化を果たしたのだろう。


 正面から戦うのは、危険。

 レベル差、ステータス差を鑑みれば、本来嘲笑されて然るべき判断だ。

 一つ進化したとはいえ、格下のゴブリンを相手に、戦いを避けたなど。

 それでも、狼王には確信があった。

 アレは、何か違う。

 ただのゴブリンではない。


 そう判断したからこそ、あえて背中を見せた。

 そこを襲ってくるようなことがあれば、即座に反撃し喉笛を噛みきる算段で。

 しかしやはり、あのゴブリンは仕掛けてこなかった。

 こちらの思考が読まれている。

 そんな煩慮が狼王を苛立たせ、焦らせた。

 早く、あのゴブリンの住処を探し出さなければ。

 その寝込みを襲い、今度こそ食い殺す。


 そんな焦りを抱きながらテリトリーを散策していた狼王は、既にその焦りは遅すぎた事を悟る事になった。


 自らが踏み抜いた糸の下から輪が持ち上がって締めあがり、その前足をつるし上げた事によって。


 明らかに知性を感じる人間のような罠。

 しかしこの森の中の物だけで作られた様相は、ある種原始的。


 狼王は即座にその鼻に傾注し、種族スキル〈索敵:嗅覚〉を発動する。


 すぐに発見した。


 100メートル先の木、その上に座り、弓を引き絞る知性有りしゴブリンの姿を。


 やはり、危険だった。


 あのゴブリンは。



 狼王が藻掻き足掻くその刹那、ゴブリンの手から強靭な矢が放たれた。




 と、同時に……自らのテリトリーに侵入する「何者か」の存在を、検知した。




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