盲目な旅人
「ァァァ…」
そういう、事なのか。
逃げて逃げて崖から落ちて、辿りついた池の水面を覗き込み、俺はショックと悲しみでもう何分も項垂れていた。
ここは止水域。
森の中に溜まってしまったちっぽけな池に過ぎず、その水は藻やコケで酷く濁っている。
空を覆う木葉が池の上にはないので、そこから差し込む麗らかな日差しはまるで俺の新たな人生を祝福しているかのようだった。
ふざけんじゃねぇ。
この顔で、身体で、どうやって生きて行くんだよ!?
「アァ…グァ…」
おまけにこの豚が苦しんでいるかのような、見苦しい声。
これは誰がどうみても、あらゆるゲームで最弱、かつ醜悪で狡猾、虫けらみたいな扱いを受けるゴブリンだ。
鋭く伸びた耳、黄色く尖った歯、子供のように小さな身体、蜥蜴のような目。
無理だ。終わった。
夢?夢だよな?このケツと左肩に刺さった矢も、全身のすり傷も、流す涙も。
現実なわけないよな?
「ァプゥ…」
あぁくそ、溜息をつきたいのに気持ち悪い声しか出てこない。
俺は、死んだ。
それは確かだ。
なんかこう、土砂崩れ的なものに巻き込まれて死んだ。
それだけは確かだ。なんせ死ぬ直前まで「あぁこれ死ぬなぁ。せめて転生できねぇかなぁ。スライムでもいいから転生してぇ。死にたくねぇ」みたいな事考えていたからな。はっきり覚えてる。
だっていうのに、せっかく転生したのに下手したら目覚める事もなく死んでいた。
こんな人生RTAあるか?
ていうか神様は?転生特典は?チート能力は?俺を呼んだ王様は?
俺にしか見えないステータス画面とか、俺だけに入る経験値ポイントとか!
そういうのどこいった?
「ウギュゥ…ァァ…ァァ!ァァァ!!」
何か起きないだろうか、と空中に叫んでみる。
だって、あまりに説明が無さすぎる。
せめてこう、ゲームマスターみたいな存在から説明だけでも欲しい。
このままこんな意味わからない森に放り出されたって、何をどうしろっていうのか。
「ゥガァッ!!」
あまりに何も起きないので、もう一度叫んでみた。
すると。
ピコン、とやたらとポップな音が頭上から鳴り響く。
顔を上げて見て見ると、そこにはなんと!!
ステータス画面のようなものが!
──……──
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笏?笏?
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笏?笏?
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笏?笏?
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笏?笏?
──……──
うん。
何も読めません。
そら、そうよな。
都合よく、俺の知っている言語なわけないよな。
え、じゃあちょっと待って。
この世界、ガチで異世界なん?
いや、異世界なのは察していたんだけど、本当に、最低限の言語サポートすら無い異世界転生って……こと!?
無理ゲー過ぎるだろ!!