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呪い




 ※




 まだ、駄目だ。



「逃げてください!ザントーレさん!」



 『誰か』が私の肩を担ぎ、走る。

 鎧が追い立てる音がして、『誰か』が離れる。背中を押す。


「あなただけでも、逃がしてみせる!みんな!時間を稼ぐぞッ!!」


 私の横を通り過ぎて、数人の見知らぬエルフが駆け抜けていく。

 鈍い剣戟と、血が飛ぶ音が聞こえる。誰かが倒れて、また、誰かが死ぬ。


「ザントーレを死なせるなッ!戦うぞ!」


 背後で、叫ぶ声が聞こえる。

 剣が横を掠めて、誰かが私の背中を押す。


 踏みしめる地面は血で汚れていて、転がる死体をいくつも見送った。

 上がる炎と、壊れた町を歩く。

 目的地などない。今さら死に場所など選べない。わかってる。

 身体の感覚が無い。けど、この身体はどんどん軽くなっていく。羽が生えたように、血を失うように。

 半分になった視界は影が濃くなっていき、戦火に包まれた町は煙ったくてよく見えない。

 城塞なんてとっくに崩壊していて、いつの間にやら戦場は街に変わった。

 もう、誰も生きては帰れないかもしれない。

 それでも、私を逃がそうと多くのエルフが戦う。


 私なんかのために、どうしてだろうか。


「命懸けでゾーイを倒した英雄を、せめて守れずして何のための戦いだッ!行くぞォ!」


 死んでいく。死んでいく。死んでいく。


 私も、もうすぐ死ぬ。


 でも、まだ駄目だ。


 今死んでしまったら、きっと呪いになる。


 この戦場で私を失えば、彼はきっと自分を責めてしまうから。


 だから、まだ、死ねない。


 朦朧とした意識の中、ふらふらと彼を探して歩き続ける。


 つい先程まで吹き荒れていた嵐、その中心を目指す。

 嵐が過ぎ去って、荒れ地と化したその場所を歩き続けて、幾許か。


「……ぁ」


 遠くで、ゴブリンさんが見えた。


 倒れ込んだ彼は、まったく動いていない。


 けれど、ひと際呪いが強く噴き出ると、びくっと震えて動き出す。見覚えのあるその挙動は、戦闘続行で復活した時のもの。

 これで幾度目なのかはわからないが、震えながら起き上がる様子は、彼も私と同じく限界であるとわかる。

 起き上がった彼は、私を見つけて走り出した。


「アウラ……ッ!」


 遠くから必死に私の名前を叫んで走ってくる様子は、何だか少し、愛らしい。

 何度も躓いて、それでも私だけを見つめて、彼は走っていた。


 あぁ、駄目だよ。

 そんなに名前を呼ばないで。

 伝えないようにって頑張っていたのに、言いたくなってしまう。

 呪いになるって、わかっているのに。言っちゃ駄目だって、わかっているのに。

 私はこの目に焼き付けるように、彼を見つめ続けた。


「アウラッ!!」


 しかし、どうにも様子がおかしかった。

 私の名前を何度も呼ぶ、その様子はあまりに鬼気迫るもので。

 その視線の先にいるのは、よく見ると私ではなかった。

 私の、背後を。

 恐れるように、厭わしく、睨みつけている。


 あぁ、そうか。


 私は、何となく理解しながら。


 後ろを、振り向いた。


 同時に、背骨を砕いて貫通する、腕の感触を知る。


「逃げろォッ!!アウラァァァッ!!」


 心臓を貫く、その腕は燃ゆる。


 空間を焼いて現れたその人物は、優美に口を開いた。


「〈焦土の熾天使(ダハナ・ルドラ)〉」


 私を貫通したその腕で、女勇者、オリィは終焉の炎を解き放つ。


 それは必死にこちらに走っていたゴブリンさん諸共、周囲一帯を吹き飛ばした。




 ※






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