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アウラ・ザントーレ ①



 ※




「〈補助魔力群(サブユニット)〉」


 私は前回のゾーイとの戦いを踏まえ、彼女と接敵する前に基本的な補助魔法を使用しておく。

 背後に五つの魔力の塊であるエメラルドの光を従えて、魔法や矢、投石の行き交う戦場を駆け抜けた。

 城塞を駆け上がり、戦場の様相を見渡す。


 と、その偵察を行うと同時に氷塊が飛来し、私のすぐ近くの城塞を粉砕した。


「っ…!あくまで魔法使いとしての本分に徹して、遠距離からの砲撃を繰り返しているみたいだけど…場所さえわかれば、直接叩ける…!」


 氷塊が飛来した方向を睨み、私は城塞から飛び降りる。


「〈飛翔(フライ)〉」


 下降しながら空を突き進み、森林の奥にゾーイと騎士たちの姿を捉えた。


「〈ヴォルティック・インフェルノ〉」


 地面を滑走し、杖に魔力を溜めてゾーイたちに高速で接近しながら私が持ち得る最大範囲火力を叩きこもうとした。


 しかし、ゾーイの瞳が私を捉えた瞬間。

 彼女は、何かを呟いた。


「〈零領域〉」


 滑走する私の足が、ある一定の地面に踏み入った途端にそれは発動した。


 魔法陣が円形に広がり、半径2メートル程度の円から吹雪が爆発するように吹き抜ける。


「あぁっぁぁぁぁぁっ!?」


 すぐに理解した。


 私は、罠にかかったのだと。


 ダメージはそれほどなかった。

 けれど、足先が霜焼けとなって凍り付き、動かなくなった身体を支えるために地面についた両手も瞬時に凍てつく。

 真っ白な魔法陣はその美しさとは相反して、その領域に踏み入った私を完全に拘束してみせた。


「くっ…!」


 身体を無理やり動かそうと足掻くが、凍てついた身体が四つん這いのままほとんど動かない。

 わずかに動きはするが、その度に皮膚と肉が割れて血が飛び、その血さえも冷え固まる。


「やはり来ましたか、アウラ・ザントーレ。なるべくこれは使いたくなかったのですがね」


 騎士を引き連れたまま、ゾーイがこちらに向かってくる。


「これは…魔法陣…!けれど、こんな強力な拘束力どうやって…!」


「あなたを今閉じ込めているそれは陣というより、結界に近い。外界と内側を断絶し、制約によって魔王でさえも閉じ込める事が出来るのです」


「っ…!こんなものっ…!」


 私は魔力を滾らせて、出鱈目に魔法を行使し、結界を破ろうと試みた。


「やめたほうがいいですよ。その結界の中でスキルを使えば、全てダメージとしてあなたにフィードバックされます」


 その言葉を聞き届ける前に〈ファイアボール〉を生成していた私は、瞬時に全身の血管が弾けるような痛みに魔法を霧散させてしまう。

 しかし、それが功を奏してそれ以上のダメージを受けずに済む。


「ぐぅ…!」


 鼻血や皮膚からの出血となってフィードバックされたダメージを、スキルで回復させる事も出来ずに私は蹲る。


「安心してください。制約、と言ったでしょう。その結界の中にいる限り、あなたは外界からダメージを受ける事はない。この戦争が終わるまで、安全を保障しますよ」


「……!」


「最も、戦争が終わった後で、全ての騎士と私で囲み、結界を解くと同時にあなたを殺しますがね」


 つまり、この結界は相手をその場に抑留する事に特化したものだと。


 名前を確か、〈零領域〉と言っていた。

 前回ゾーイがユニークスキル〈絶対零度〉を持っていると語っていたことを踏まえると、恐らくこれは私で言う所の〈全元素空間波動エレメンタル・リフトヴォイド〉のようなもの。何かしら元々使いにくい効果であったそのユニークスキルを、〈炎の支配者〉や他のスキルと融合させて作り上げた、オリジナルの結界術。


 そして、「なるべく使いたくなかった」という事は、他にも制約があるはず。

 例えば使えるのは一日に一度までとか、莫大な魔力消費とか、あるいは一度に拘束できるのは一人までとか。


 もし、使えるのが一人までであるのなら、使いたい相手が決まっていたということ。

 それは当然、彼女たちにとって一番の脅威であるゴブリンさんだろう。


 この結界術、これは非常に危険だ。

 本当に魔王さえも閉じ込める事が出来るほどのものならば、アレックスの相手をしているゴブリンさんにとって致命傷になり得る。


 私がここで拘束されている事で、ゾーイがこの奥の手を使えないのならまだ良い。


 けれどもし、単に魔力消費量が莫大だとか、そんな理由で出し渋っていたのなら。

 このまま、ゾーイを行かせるわけにはいかない。


「では、行きましょうか。最もパントーハ様に近づけてはいけない相手は、ここで確保しました。次の目標へ向かいましょう」


 ゾーイたちは特段私に関心を示す事もなく、身動きの取れなくなった私を置いて城塞の方へ進んでいく。


 私は、その背中を睨む。


「あぁ……やっぱり、言わなくてよかった」


 自分の判断に満足し、私は立ち上がるために全身に力を込めた。





 ※





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