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悪鬼羅刹



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 『灰の十字軍(アシェン・クルセイド)』の選抜騎士バルトは顔も知らない騎士と共にセントクエラの城塞端へと向かっていた。


 それはひとえに、聖騎士パントーハから「ゴブリンの死体を確認せよ」という命に従ってのものだ。


「……炎神様の炎を受けて、生きているはずない」


 ポツリと、バルトは隣の騎士には聞こえないよう口の中だけで呟く。

 オリィの〈劫火の彗星(スーリヤ・アグナヤ)〉はつい最近、魔王の一人を破った一撃。その威力は全勇者の中でも最高峰で、防がれたなどという話は聞いた事がない。

 だからこそ、『灰の十字軍(アシェン・クルセイド)』の騎士たちはその多くが困惑し、何が起きたのかがよくわかっていなかった。

 何故、〈劫火の彗星(スーリヤ・アグナヤ)〉が突然、空中で弾けて散ったのか。

 ゴブリンが空をのぼる姿なぞ多くの騎士には見えておらず、故に〈劫火の彗星(スーリヤ・アグナヤ)〉が破られたなどと考えてもいない。

 むしろ、オリィの采配によって宙で霧散し、こうしてセントクエラの戦線を意図的に崩壊させたのだと考えている。

 なので当然、ゴブリンの焼死体はただ単に隕石に不幸にも当たってしまっただけのものであると考えて、それほど警戒もせずにパントーハに言われた地点へと到達した。


「いないな…」


 瓦礫だらけの郊外は焦土と化しており、そこにはただ雑然と瓦礫が散乱するのみ。

 辺りを少し見渡して、二人は血の跡を発見する。


「…焼けた痕に、大量の出血…どうやらここで誰かが大きなダメージを負ったのは確かなようだが、もういないようだ。聖騎士様に報告しよう」


 死体は確認できなかった。

 それを報告しようと踵を返した二人は、立ちふさがる鎧を視界に入れる。


「え?」


 いつの間に、そこにいたのか。

 背後を取られていた恐怖よりも、バルトの胸中を支配したのは戦慄だった。


 その鎧の男は、満身創痍だった。


 鎧は全身にヒビが入っており、今なお夥しい量の血を垂れ流す。さらに肉が焦げたような臭いとともに煙が立ち込めており、何故立っていられるのか不思議なほどの死に体。

 けれど、その鎧の奥から鈍く光る赤い瞳だけは煌々としていて、十重二十重に鎧を覆う影と呪いのオーラがバルトに散在的な戦慄と恐懼を呼び起こさせた。


「逃げ──」


 戦えば、死ぬ。

 死ねば、任務を果たせない。

 パントーハへの報告を何よりも重要と考えたバルトは、すぐに逃げるべきだと叫ぼうとした。


 けれど、それを伝えようと横を向いた時には既に、隣の騎士の兜は吹き飛んでいた。


「ッ!??」


 理解を超越した光景だった。


 バンッ、と何かが破裂するような音と共に頭が吹き飛んでしまった騎士を即座に諦めて、バルトは視線を鎧へ戻す。

 鎧がこちらに向けているのは、影魔法で作成した筒のような武器だった。

 『銃』だ。この世界ではまだまだ一般的ではないが、どこぞの魔王が扱う武装として有名であり、国によっては大砲が軍隊に装備されているので、知識としては理解できる。

 けれど、その形状はバルトの知るどんな銃とも異なる、近未来的かつ洗練されたデザインであり、一瞬それが何か理解できなかった。


 しかし、理解できたのだから対処も出来る。


 鎧がその引き金を引き、弾丸を放つのを目で追ったバルトは、同時に武技〈抜刀〉を使う。

 佩剣した剣を抜き放ちながら迫る弾丸を両断し、見事にその一撃を防いで見せた。


 ただ、一つ、バルトに不幸があったとしたら。


 まだこの世界では、連射が可能な銃が存在しなかったこと。


「ぁっ──」


 両断し、通り過ぎていく銃弾の向こうから、無数に迫る次弾に気づき、バルトは絶望した。

 一つ、幸運があったとするなら、弾丸の着弾はあまりに速く、バルトの絶望も一瞬で済んだことだろう。


 そうして、バルトは一瞬にして蜂の巣となってその場に倒れ込んだ。




 ※





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