食品を加工しよう ①
「ヒィ…ヒィ…」
畢竟、洞窟に辿り着くころには完全に体力を使い果たしていた。
まず小川を目印にしようと小川を探して歩き回り、そこから女に発見された地点を記憶を頼りに探し回り、そこからさらに二時間かけて洞窟に戻るというえげつない労力。
帰ってくる頃には空が暗くなり、獣の視線や物音にビクビク怯えながら帰り着いたのが、まさに今だ。
さて、とりあえずすぐにやらなければならない事がある。
血抜きだ。
これをやらなければ味が落ちるし、すぐに悪くなってしまう。
俺は洞窟の中に転がっている石と石をぶつけて割り、理想的な割れ方になるまでその工程を繰り返す。
鋭利な断面が生まれると、今度は女の服を脱がす。
装備品一式と服を全て脱がせると、中には包帯やポーション、サバイバルナイフなんかが仕舞われていた。
おいおい、今せっかく石でナイフ作ったのに。
まぁ、女が持っていたのは道草を砕き切ったり薪を割ったりする用途の、かなり大きめのナイフだ。
細かい加工には石ナイフも使えるだろう。
と、普通に女を脱がせたわけだが、この工程が結構心にくる。
食べると決めた以上、避けては通れない工程なのだが、それでもまるで強姦でもしているかのような良心を抉る作業だ。
無論、性欲なぞ微塵もわかない。
俺にとってはもはやただの肉だ。
ウジ虫よりはマシだろうという期待感こそあるが、食欲以外の欲望はわかなかった。
だが、元人間としての道徳が呵責してくるので、とっとと原型がわからなくなるまで加工してしまいたい。
そんな焦りが、一つ大切な工程を忘れている事に気づく。
火だ。
この文明の明かりがなければ、それこそただの人食いゴブリンの食事になってしまう。
俺はもっとこう、上品な料理で美味しく食べたい。
それに加工して長持ちさせるなら、ぜひ燻製も欲しい。
天日干しでも長く持つが、この森は割とすぐに雨が降る。
湿気が多いとちゃんと天日干しできるか少し不安なので、俺は洞窟からでて枯れ木を回収していく。
ついでに大き目の葉っぱがついた枝と、火種に使える枯草。
松ぼっくりのような何か等をひとしきり洞窟に運び込んだ。
後は火おこしをするだけだが、その前に。
俺は死体の首を裂き、洞窟内の岩に頭から逆さになるよう死体を寝ころばせる。
本当は吊るして血抜きをしたいところだが、生憎時間も体力もない。
勾配はなだらかだが、これでも多少は血が滴るだろう。
後は火起こしだ。
さきほど持ってきた強度がある細い枝の先端をナイフで丸くし、乾燥した土台となる木も表面を一部削って平らにする。
わずかに窪みを作ったら、そこに枝を固定して全力でこする。
ただひらすらにこする。
先日雨が降った事もあって空気が湿気っているので、目安としては二時間ほどこすり続ける。
これが錐揉み式と呼ばれる摩擦回転による最も原始的な発火方法だ。
「ギィィィ!」
俺は自然と叫びながら火起こしをし続けた。




