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誰が為に踊る ①



 ※



「戦うべきですッ…!」



 机を両手で叩きながら提言したのは、冒険者協会セントクエラ支部の副支店長を任されている若い男だった。

 精悍な人物で、この会議室の椅子に座っている者達の中では最も若年だ。

 しかし、《《座れていない者》》を含めてしまえば、もっと若い者もこの場に存在している。

 要するに、傍聴人である。


 このあまりに重大な会議には、多くの傍聴人が立ち並んで参加していた。

 ここは冒険者協会の会議室ではあるものの、このセントクエラに住む町民にはその行く末を聞き届ける権利がある。

 そのため、会議の椅子に腰かける私の背後を含め、会議室は林立する傍聴人で溢れ返っていた。

 それは廊下にまで及び、詰めかけた人々の視線がただ一心に副支店長に注がれる。


「報告に上がっていた、原因不明のエルフの村に対する被害!魔物によるものと偽装工作されていたそれら被害は、人間の手によるものだったのです!とっくに我々は攻撃を受けていたのですから、戦う以外の選択肢などありえない!何を悩んでいるのです!」


 責め立てるように声を荒げた副支店長の言葉に、幾人かの傍聴人が頷いている。

 だが、冷静に反論を行ったのはまさかの直属の上司、支店長だった。


「副支店長、冷静になりなさい。これは危急の案件ですが、だからこそ冷静に対処しなくてはなりません。ワングの報告が確かならば、敵は人間の、それも『灰の十字軍(アシェン・クルセイド)』である可能性が高い」


「……っ!」


「ゲルニア王国が有する、最強の異端審問者達です。そして、彼らを束ねるのは剣星。もし、あの忌まわしきグーテンベルク家の血塗られた嫡子、アルス・ハイネス・グーテンベルク本人が来ているのであれば、勝ち目などない。すぐに、避難するのが得策でしょう」


 その言葉に副支店長は言葉を失うが、今度は街の数少ないA級冒険者パーティー、『鶴翼の奢侈』リーダー、ペントリリムが異論を唱えた。


「けど支店長、その避難が難儀しているからこそ、この会議なのよ。セントクエラに暮らしているエルフは約八千人。この規模を避難させることの重大さを、わかっていて?」


「ええ、もちろんです。しかし、命には代えられない。それが私の主たる論点です」


「街は、命そのものよ、支店長。多くのエルフがこの街で生まれ、この街で仕事をして生きている。街を手放せば、八千人が仕事を失うわ。そして、セントクエラの付近に八千人の雇用を満たせるような、大規模な街はない。せいぜい小さな村が点在する程度。逃げた先で、どれだけのエルフが餓死するか…」


「魔族領へ行けばいいのです。魔族はエルフ排斥などしませんから、魔王の庇護下に入れれば希望はあります」


「無理よ。確かにセントクエラは魔族領と貿易を行っているけれど、それは相互利益の関係だから成立しているのであって、一方的に八千人の避難民を受け入れろなんて、慈善家の魔王だって匙を投げるわ」


「魔族領だって一枚岩ではありません。複数の領地へ避難民をわけて送れば…」


「その間の食糧は?野盗や自然災害だってある。着くころには子供や老人の死体をいくつ埋葬する事になるかしら?」


「では、戦うというのですか?負ければあなたの言う餓死していたか弱い町民の、凌辱された姿を見る事になるでしょう。男は磔にされて燃やされ、恐ろしい拷問を受ける事になります…!」


「二極化しないで、支店長。私は何も、逃げる事のみが最善策ではないと提言しているだけよ」


「ですが、それ以外どうしようもないでしょう…!避難には時間がかかる。こうしている今も、人間が攻めてくるかもしれないというのに…!」


 ペントリリムの言葉に、いつしか冷静さを説いていたはずの支店長こそが声を荒げ始めていた。

 どちらの主張も、間違ってはいないのだ。

 ただ、この状況に希望があまりにもないというだけの話で。


「町長っ!!」


 私が頭を抱え始めていると、傍聴人を割って会議室に飛び込んできた私の秘書が、大声で報告を口にした。


「帰ってきました…ッ!!」


「っ!!」


「彼らが…ゴブリンさんが…ッ!!!」




 






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