vs 蜘蛛の竜王 ③
まるで、爆撃だった。
幻獣の腹を下から突き上げるように無数の爆発する矢が突き刺さり、爆音が轟く。
「※※※※※※※※※※!?」
ここにきて初めて、幻獣は大きな身体を仰け反らせて絶叫を上げた。
かつてのムカデのように全身の穴という穴から光線を滾らせて乱射し、鍾乳洞内が揺れ動く。
「やばっ」
俺は慌てて影から飛び出して後退し、中腹の入り口付近まで引き下がった。
すると、非常食がこちらに駆け寄ってくる。
「非常食、一旦影に戻っていろ」
幻獣の御乱心が収まるまではいつどこから光線が飛んでくるかわからない。
現に非常食が召喚したアンデットもほとんど光線の余波で倒されてしまっており、それは有象無象の蜘蛛だってそうだ。
俺は大事を取って非常食を影に仕舞うと、ちょうど時を同じくしてアレックスが幻獣の背中から飛び降りてきた。
「いやぁ、まいったねぇこりゃ!」
すっかり返り血に染まったアレックスは、その出で立ちとは相反して楽しそうに笑う。
「ゴブリン君の仕業かい?この大惨事は」
「共犯だろあんたも。それより、どうする?」
アレックスは改めて幻獣の方へ視線を投げながら、後頭部を掻いた。
「どうするもこうするもないよ。こうなったらもう近づけない。収まるのを待つしかないけど…」
と言葉を濁し、天井を見上げる。
俺もそれに倣って上を見上げると、パラパラと小石や破片が落ちてきていた。
「この鍾乳洞がもたない、か」
「うん。まぁあの幻獣は天井が崩壊したって死なないだろうけど、あれが外に出るのはまずい。気まぐれなブレス攻撃がどこぞの村にでも当たったら、それだけで何百人って死んじゃうぜ?」
「それに、毒の効果範囲も不明だ。存在するだけで周囲を汚染するのなら、移動し始めた瞬間に死の要塞になる」
「まだ何か出来る事があるとしたら…それこそ、一撃で幻獣を殺してこの戦いを終わらせるしかない。けど…そんなこと俺には出来ねぇしなぁ。どうだい、ゴブリン君にアテはある?」
一撃。
俺が持つ最高威力…例えば呪いの剣、進化したデバステイターの最大威力ならあるいは…
あの巨大ムカデだって倒して見せた、あの攻撃なら。
だが、使っていいのか?
この、アレックスの前で。
どうにも全力を出す事にまだ逡巡していると、アレックスが憂きように背後を気にしていた。
「まずいねぇ。このまま鍾乳洞が崩壊すれば、ワングやお嬢ちゃんが危ない。一旦退避するよう言いに行くべきかなぁ」
そうだ。
ここにはアウラだっている。
それを思い出した時、俺の中で覚悟は決まっていた。
「アレックス、俺をブレス攻撃から守れるか?」
「え?」
「一瞬でいい。俺が一撃、幻獣に叩き込むその一瞬だけ防御を任せていいか?」
「まぁ、それくらいなら不可能じゃないけど…やれるのかい?」
「わからないが…やるだけやってみる」
俺は歩きながら右手に呪いを溜めて、持ち得る最強の武器を呼び出す。
赤黒い剣を握りしめる俺を見て、後ろのアレックスが驚いたのが分かった。
「それは、まさか…!」
「…?」
「…いや、いいね。最高だ。よし、おじさんも頑張っちゃおうかなっ!」
よくわからないが楽しそうに笑うアレックスと共に、未だ暴れ狂う幻獣へ歩みを進めた。




