表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/184

天理






 アレックスに促されるまま、俺は仕方なく座りなおした。


「…アレックス、お前も…異世界人、なのか?」


 俺は恐る恐る、隣の男へ問う。


「お前も、ってことはゴブリン君はそうなんだな?」


「俺は…そうだ。気付けば、この世界に居た」


「気付けば?いや、なるほど。召喚されたわけじゃなく…こりゃ珍しい」


 意味ありげに、アレックスは笑った。


「ゴブリン君、君は…元の世界に帰りたいとは思わないか?」


 唐突に、男は真剣な声色でそう言った。


「そりゃ、帰れるものなら…けど、俺はもう死んでいる。帰れる場所なんて…」


「方法なら、ある」


「え…?」


「俺達はいつか元の世界に帰る。必ずだ。その時、君が望むなら…一緒に帰らないかい?」


 もしそれが本当ならば、願ってもない提案だった。

 けれど、だからこそ俺は慎重に言葉を選ぶ。


「…具体的に、どうやって?」


「君は、天理を知っているかい?」


 知っている、と答えそうになって、俺は言葉を呑み込む。

 素直に答え過ぎた。

 俺はこの男を完全に信用したわけではない。

 ならば、嘘と本当を混ぜながら話そう。


「…いや。なんだそれは?」


「全ての黒幕だ。魔王なんてものを生み出し、この世界を混沌に陥れる諸悪の根源。システムなんてものを作って、終わらない勇者と魔王の戦いを続けさせている」


 話が、印象が、随分と異なった。


 タナトスが語った時には、もっと神聖で、神のように語っていた。

 同じ人物を語るというのに、こうも正反対の印象になるものか?


「奴は俺達がいた世界とこの異世界との間に逃げ込み、今もシステムを通じて世界を支配している。だが、いつか必ず滅ぼす。その時だ。天理を打倒したその時、元の世界に帰る道が一瞬だが開ける」


「…どうしてわかる?」


「長年の研究さ。この千年、多くの者達が天理を滅ぼすため、その存在と居場所について研究してきた。その結果、研究者たちが出した結論。もちろん、間違っているかもしれない。だが、それしか可能性がないのなら…試す価値はある」


 その話が全て正しいとするなら、確かに試す価値はあるだろう。


 けれど、タナトスの話とあまりに異なる印象に、俺はまだどちらが正しいかなんて結論が出なかった。

 いや、もしかしたら…どちらも間違えている可能性だって多分にあるはずだ。


「なぁゴブリン君、もし君が俺を信じてくれるなら…俺と手を組まないかい?」


 アレックスは珍しく優しく笑って、俺に手を差し出した。


「……」


「あぁ、いや、今すぐ全部信じろとは言わないさ。だが、同じ異世界人同士、共有できる思いはあると思うぜ?」


 男は、もっともな事を言っていた。


 でも、何故だろう。


 どうにも、この男が真実だけを言っているようには見えなかった。

 それはきっと、俺の中の回避的な思考回路のせいで、ただの人間不信なんだろうけど。


「そうだな。お前とは、もっと話してみたいとは思った。結論は、お互いにもっと信頼関係を築いてからでもいいか?」


 結局、俺がアレックスの手を取る事はなかった。


「……あぁ、もちろん」


 けれど、男の表情は何も変わらず。

 それが一層、不気味だった。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ