洗練された野生 ②
アレックスはザントーレを助け出すと、その手を取って立たせる。
「大丈夫かい、お嬢さん」
「は、はい!ありがとうございます」
そのやり取りを眺めながら、俺は疑問を感じていた。
アレックスはどこからともなく現れて、以前ワングの危機を救ってくれた恩人。
だが、だからこそわからない。
その素性も、目的も。
その実力はゴブリンさん同様、未知数だ。
けれど、アレックスはこれまたゴブリンさんと同じく『魔女』を恐れない。
そういった意味で、二人はよく似ている。
慣習や常識を顧みず、実力だけで周囲をねじ伏せていく様は痛快で、きっと今ザントーレを助けない選択をした俺達よりもずっと、正しい在り方なのだろう。
俺が苦渋を呑み込んでいると、アレックスは腰から二本の短剣を取り出して蜘蛛の大群へ単身で乗り込む。
「お、おいっ!?」
思わず制止するが、男は止まらない。
それは、さながら舞いだ。
ゴブリンさんの野性的な蹂躙とは対極に位置する、滑らかな舞踏。
普段のやさぐれたおじさんの姿からは想像も出来ないほど華麗に、最低限の動きと力で蜘蛛を屠っていく。
スキルや魔法なぞ使う事もなく、あっという間に一人で魔物を壊滅させてしまった。
「すごい…」
その圧倒的な強さはまるで、勇者や魔王に匹敵するのでは思う程。
俺は直接そういった伝説的存在をみたわけではないので、あくまで想像の上でなのだが。
「ところでマイケル君、ゴブリン君はどこ?」
アレックスは短剣についた血を振り払いながら納刀し、こちらに振り返る。
「あ!」
聞かれてやっと、思い出した。
ゴブリンさんが一人で親玉とやらを倒しにいったことを。
俺は慌てて森の中に走った。
まずい。
いくらあの人でも、一人で魔物と戦うなんて危険すぎる。
呆然としてしまって、そこまで頭が回っていなかった。
森の中を少し進むと、道すがらに蜘蛛の死体が転がっている。
死体が道しるべのようになっていて、俺は迷わずに走り進む事が出来た。
しばらく走ると、わずかに開けた場所が見えた。
「ゴブリンさん…!」
俺は彼の無事を祈りながらその場所へ飛び込んで──積み上げられた、巨大な蜘蛛の死体を見た。
「…え?」
2メートルはあろう大きな蜘蛛型の魔物が、4体。
積み上げられて、その頂上でゴブリンさんは立っていた。
これを…一人で?
「マイケル、無事だったか」
なんてことないようにそう言って、死体の山から飛び降りる。
かなりの高さであり、着地の衝撃で地面が微かに揺れた。
けれどゴブリンさんは一切怯む事もなく、そのまま俺の横をすり抜けて戻っていった。
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