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アレックス






 俺がいつものように冒険者協会に入ると、一瞬、視線がこちらに集まるのがわかった。

 けれど、それは奇異なものではない。

 いや、ではなくなった、と形容するのが適当だろう。


 最初は、俺が自分の素性を隠匿している事もあって、かなり胡乱な扱いを受けた。

 しかし、いくつか依頼をこなしているうちに、そういった視線は少しずつ薄れて行った。

 受付嬢であるアイリが積極的に俺に話しかけてくれたのも、一つ大きな要因であろう。

 親し気に話しかけてくれる人がいるだけで、俺という存在を受け入れやすくなったようだ。


「よっ、ゴブリンさん」


 そんなわけで、こうして話しかけてくれる冒険者もいる。

 

 声のした方へ視線を動かすと、そこには何度か依頼を共に受けた事のある冒険者パーティー、『ワング』の面々がいた。

 ワングは三人パーティーで、魔法使い、野伏兼剣士、ヒーラーで構成されており、前衛が不足気味だ。

 そんな事もあって、ソロの俺とは相性が良く、共同依頼をこなすことが何度かあった。

 パーティーのリーダーである剣士、マイケルは俺を気に入っているようで、B級冒険者パーティーでC級である俺とは開きがあるにも関わらず、よく話しかけてくる。


「マイケル、どうかしたか?」


 念話で話しかける。

 これにもかなり抵抗がある者は多く、慣れるまで時間がかかった。

 マイケルは当然もう随分なれたはずだが、この日は少し雲行きが怪しかった。


「…いや、風の噂で聞いたんだがな。ゴブリンさん、あんた…魔女と暮らしているって本当か?」


「……魔女?アウラの事を言っているなら、まぁそうだが」


 俺がそう答えると、三人は顔を見合わせる。

 そして、マイケルが代表する形で恐る恐る口を開いた。


「その…だな。まさかとは思うが…あんた、洗脳とかはされてないよな?大丈夫か?」


 その歩み寄る姿勢は本当に悪意がなく、俺は瞬時に理解する。

 彼らは真摯に、友人だと思って俺の身を案じているのだと。

 だからこそ、俺は一瞬沸き起こった『殺意』を抑え込んだ。


「安心しろ。俺は洗脳も支配もされない。無効化を持っているからな」


「無効化!?そ、そうか。それなら確かに、ありえないか…」


「洗脳でもされなきゃ、魔女と暮らすわけないとでも思ったか?」


「あっ、いや…」


「偏見や思い込みだけじゃなく、自分の目で相手を見た方がいい。こうして話している俺が、君の中の安全な種族とは限らないぞ」


 皮肉を込めてそう言い放ち、俺は受付の方へと歩き出そうとした。

 けれど、それをワングの後ろにいた一人の男が呼び止める。


「へぇ。例えば、それは君がその名前の通り、ゴブリンだったりするって事かい?」


 聞き覚えの無い声に振り向くと、そこにいたのはやさぐれた男だった。

 ボサボサに少し伸びた襟足、ボロボロの服は何日洗っていないのやら。

 見るからにだらしのない、飄々とした人物。


「…誰だ?」


 俺が訝しんで聞くと、マイケルが紹介する。


「あっ、つい昨日俺達が苦戦してたところを助けてくれてさ。セントクエラまで行きたいっていうから連れてきて、しばらく一緒に依頼を受ける事にした人だ」


 名前を紹介する前に、男は俺の前まで向かってくると、手を差し出して自ら名乗った。


「アレックスだ。アレックス・パントーハ。よろしく」


 俺は若干迷った後、仕方なくその手を握った。








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