ワレモノ注意
「〈爆発貫力補助・フレイム・ライトニング〉!」
やばい。
やばいやばいやばい。
「〈補助魔力群〉展開!〈過負荷圧縮〉!」
なんか知らんけど、やばい。
ちらりと後ろを振り返ると、そこにはゴブリンの俺なんかよりもずっと鬼の形相をした女が、とてつもない数の魔法を操っていた。
女の周りにいくつも展開された火球が一斉に打ち出され、さながら機関銃の掃射が如く俺のいる場所を蹂躙する。
その蹂躙された地点の真ん中にいて、俺は天才的なまでの小躍りを踊って直撃を避けた。
もはやタップダンスの才能が開花したといってもよい程にギリギリであったが、それでも全ての火球は地面に触れた瞬間爆発し、俺を空高く打ち上げる。
空を舞い踊りながら、俺の思考は何度も途切れる。
強すぎる爆風に何度も脳震盪を繰り返し、意識が飛ぶ。記憶が飛ぶ。
その度に一から現状を把握し、命を繋ぎとめる。
手足はとっくに擦り切れて、骨なんて何本折れているのか把握できない。
いつの間にか右目は見えなくなったし、左手に四本あったはずの指が何故か一本しかない。
全身に木の破片が突き刺さり、ぐちゃぐちゃになった内臓が血を拭き出して口から漏れる。
あの女が何故かぶちギレなさっているおかげで狙いが定まっていないのか、火力に似合わず何とか生きてはいる。
しかし、最初会った時はどうみてもどこにでもいる村娘という様相だった。
それが杖を握った途端、これだ。
もしかして、これが普通なのか?
この世界の人間て、これが普通なのか?
だとしたら、俺、弱すぎるだろ。
こんなの、勝てるわけない。
人間、強すぎる…!
「死ねぇぇ!!〈エクスプロード・フレイム〉!」
生きる!!!
差し迫る爆発する火球から必死に逃げて、俺は急峻な坂を転げ回る。
天が味方し、木にぶつかることなく降り切る事が出来たので、随分女から距離を取る事に成功した。
「逃げるなァ!!」
叫びながら女が追いかけてくるのを木々の隙間から確認し、俺は息をひそめてゆっくりと辺りを見回す。
あの女は、川で俺を一目散に襲ってきた。
つまり、わざわざ俺を殺すためだけに森に入って来たんだ。
このまま洞窟に戻るわけには行かない。
せっかく見つけた安全な住処を、みすみす見つかるようなリスクは犯せない。
ならばどうする?
このまま逃げ続けるか?
この森にはあの狼だっている。
人間に見つからなくたってウロウロしていると食い殺される。
じゃあ、この場で俺にできる事は何だ?
どうすれば、俺は生き残れる?
もう既にボロボロのこの身体で、どうすれば…?
俺を殺す。その執念を持ったあの女が生きている限り、俺はずっと逃げ続けなきゃいけない。
狼にも追われて、人間にも追われて、ずっと逃げ続けていつか死ぬ。
ずっとずっと、こうやって惨めなまま。
ふざけんな。
そんなの、俺は許容できない。
いいぜ、そっちが殺る気なら。
殺される前に、殺してやる。
そして俺は、覚悟を決めた。




