Human Error ②
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「〈エクスプロード・フレイム〉!」
オリビアの持つ杖に赫奕とした炎が宿り、火球となって撃ちだされる。
逃げ回るゴブリンのすぐ後ろに着弾し、激甚な爆発を上げた。
近くの木が根元から吹き飛び、森林を冒涜的なまでに焼き払う。
その未だ吹き荒れる粉塵を杖に風を纏わせて振り払い、オリビアは地面を踏みしめて前進する。
「なんて逃げ足の速い…!」
門兵の言っていた事は本当だった、とオリビアは唇を噛む。
明らかに射線を掻い潜り、オリビアとの心理戦を凌駕する逃走経路。
見た目はどうみてもロー・ゴブリンだが、そこにはアーク・ゴブリンに匹敵する知性があった。
そもそも、なぜ下等なゴブリンが一匹でいるのか?
ゴブリンとは群れで生活し、より強力な同種に従う本能を持つ。
はぐれゴブリンなぞ聞いた事が無かった。
だからこそ、このゴブリンには何かある。
そう思って逃げる背中を注視すると、その身体に巻き付かれた包帯や蔓と葉で行った治療の跡が見えた。
「…人間の治療を受けた…?それとも、自分で…?ありえない…!」
猿と同程度の知能しか持ち得ないゴブリンに、傷の応急手当など出来るはずがない。
ならば、人間や魔族から手当されたとしか考えられない。
「どういう事なの…!?ええい、もう!」
オリビアはいよいよ痺れを切らし、両目を見開いた。
「〈鑑定〉!」
それは魔眼〈鑑定眼〉。
基礎的なアクティブスキルであり、対象のステータスを閲覧する事が出来る。
対象の耐魔力とレベル差、さらに幸運値が作用し、相当に格下でなければ成功しない。
オリビアの鑑定レベルはわずか2であり、ほとんど使いどころのない力であったが、ゴブリン相手であれば容易に成功した。
「なにこれ…まともなスキル何も持ってないじゃない。固有スキルでも持っているのかと思ったのに…」
固有スキルは、生まれつきや特殊な称号からのみ入手できる、レベルの存在しないアクティブスキルである。
それに対し、Extraスキルはパッシブであり、条件も少し緩い。
どちらも一般に生きている人間にはほぼ無縁であるが、例にもれずこのゴブリンも非常に平平凡凡、どころか平均以下の生まれたてのようなステータスだ。
と、ふと装備している武器に目が留まった。
「え……?」
そこには、見覚えのある名前があった。
〈ビアラの杖〉、とだけ表記されたそれは、間違いようもなく。
「お姉ちゃんの、杖……」
その瞬間、オリビアの中で何かが壊れた。
理性か、知性か、あるいは善性か。
「なんで……お前が持っているの…?それは、お姉ちゃんの杖だ……お前か?お前が、お姉ちゃんを……ッッ!!」
オリビアの持つ杖が燃え上がり、オリビアの全身から魔力が解放されて風が吹き荒れる。
「ぶち殺してやる…ッッ!!」
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