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第3章 月明かりの魔女たち

レオンが異能のことをフィオナに打ち明けた日の夜、気がつくと雨が止み、春の満月が雲間からぼんやりと姿を見せていた。フィオナはそんな夜空を窓からぼんやりと眺めながら、考え事をしていた。そんな夜空の景色をふと遮るように、フィオナの目の前に突然の訪問者が現れた。


「こんばんは、フィオナ。」


窓辺に箒に座って優雅に佇んでいたのは、フィオナの姉弟子である「移動の魔女」、タリア・アルデンだった。彼女は全世界を瞬時に飛び回ることのできる規格外の魔女で、その自由奔放な性格と美しい笑顔が印象的だ。


「タリア、来るなら前もって言ってくださいよ。」


フィオナはタリアが現れるのを予期していなかったが、彼女の気まぐれな訪問に驚くこともなく、立ち上がると窓を大きく開けて迎え入れた。タリアは小さく笑いながら、箒から降りて軽やかに家の中に入ってきた。


「まあまあ、細かいことは気にしないの。移動の魔女たるもの、いつでもどこでも行きたいときに行くのがその美学なのよ。」


タリアはそう言って、持参した茶葉をテーブルに置き、椅子に腰掛けて両手を顔の前で組んだ。「ところで、フィオナ。ついに監視の騎士が決まったんだって、ね、どんな子?」



フィオナはため息をついて来客用のティーセットを棚の奥から引っ張り出しながら、レオンと彼の置かれた状況を簡単に説明した。


「タリアは名高い移動の魔女だから、監視騎士もきっと名誉なことで張り切るんでしょうけどね。でもレオンは、望まない異能を発現して、騎士になれずに私みたいなハズレ魔女の監視役にされちゃったんです。あんまり可哀想で。」


タリアは蠱惑的に口角を上げてクスクスと笑いながら、「いやいや、私の監視騎士もさっき巻いてきちゃったばっかりよ。」と言った。その無邪気な様子にフィオナも思わず微笑む。


「......それで、レオン君が騎士になるような功績を作るなんて実際可能なの?」


眉を顰めたタリアの問いに、フィオナはお湯を注ぐ手を止めて少し真剣な表情で答えた。


「策はあります。」


「ふーん、......あなたの前世の記憶を使ってってこと?」


タリアの鋭い推測に、フィオナは静かに頷いた。




フィオナには、この世界で育った記憶とは別に、地球で生物学を研究していた記憶がある。それは彼女が物心つかないうちから、別人の人生としてじんわりと認識できるようになったものだった。


赤ん坊の頃、魔女としての魔力を持つことが判明し、育ての親である魔女に引き取られたフィオナは、タリアとともに魔女としての修行を積んできた。その過程で、彼女は自分が持つ「標識」の異能の力と、地球での科学知識を結びつける方法を見出していた。フィオナの「標識」の異能は、名称を思い浮かべれば、その対象に標識をつけることができる、と言うものだった。ーーそれが地球上の名称でも。


「でも、あなたの記憶のことが知られたら厄介なことになるからって、師匠も口外しないように言ってるでしょ。また前みたいなことがあったら......」


タリアは首を傾け、少しふざけたような口調で言ったが、その言葉には心配が含まれていた。


「ええ、それは重々分かってます。」


フィオナは頷きながら答えた。「なんとか、レオンの力だけを使ったような形で……」


「彼を騎士にする作戦を考えているってわけね。」


タリアは興味深そうに頷いた。




「安直に名付けて『騎士作戦』。いいじゃない。」


タリアは綺麗にネイルが施された手を上品に叩いて笑った。


「それで、具体的にはどうするの?」


「まだ分かりません。『勉強して、仮説を立てて、実験して、検証する』。それを繰り返して、彼の発酵の力を最大限に活かす手段を見つけていきたいと思ってます。」


「……あんたの十八番ね。でも、あんたの能力が目立つようなやり方は絶対に駄目よ。」


タリアは指を立てて念を押した。


「分かってます。彼の発酵の力だけでやったように見せる、それは絶対です。」


面白がったタリアと大真面目なフィオナはそれぞれアイデアを出し合い、テーブルで騎士作戦を練り上げていった。そのやり取りは尽きることがなく、二人で紅茶を何杯もお代わりして、気がつけば空は白み始めていた。


「じゃあ、私はそろそろ行くわね。せいぜい頑張りなさいよ、フィオナ。」


「ありがとうございます、タリア。またきてくださいね。」


フィオナはひらりと箒に乗って去っていくタリアを見送りながら、大きく伸びをした。そして窓から明るい朝日が差し込む部屋を見渡し、新たな決意を胸に秘めた。



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