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第1章 震える子犬との出会い

「あなたの監視を命じられました、騎士見習いのレオン・ファーウッドです。」


ここは初春でも厳しい寒さの残る辺境の地。街のハズレにポツンと立つフィオナの小さな家の前でそう告げた少年は、雪のついた金色の癖毛を揺らしながら鼻を赤くして俯いていた。その様子は、どこか()()()()()にいたゴールデンレトリーバーのレオを彷彿とさせる。なんなら名前まで近い。そんな愛らしい風貌でありながら、その表情は暗く、全てを諦めたような影を落としている。


(それもそうか)


フィオナは、少年の顔をじっと見つめた。私が「ハズレ魔女」と言われていることを知っているのだろう。今年から始まったこの魔女の監視制度、国が決めたこととはいえ、うら若い少年がこんな何もない辺境の地でハズレ魔女の監視役に任命されるとは不運としか言いようがない。彼がこんな暗い顔をしている理由はフィオナにとっても明らかだった。


フィオナは軽くため息をついて、心の中で自分を納得させた。この少年の任務を拒む権利など自分にはないのだから。


「初めまして。」


フィオナは木でできたドアを開け放つと、レオンを見つめた。


「私はフィオナ。フィオナ・アルデン。標識の魔女、あるいはハズレ魔女のほうが通りがいいかな。国からの通達は聞いてる。こんな辺境の地に君のような若者が配属されるなんて、正直申し訳ないと思っているよ。だから監視でもなんでも好きにしてね。」


レオンはフィオナの言葉に一瞬驚いたように顔を上げた。フィオナの小柄な体から発せられる、どこか気だるげで、投げやりにも聞こえるその口調に戸惑ったのだろう。しかし、彼の口から出た言葉は至って形式的だった。


「はい……よろしくお願いします。」


フィオナは、その応答の固さに小さな笑みを浮かべた。彼の態度には、明らかに慣れない環境に対する不安が見え隠れしている。


「まあ、気楽にね。ここには危険な魔物もいないし、君が頑張らなくても平和は保たれるから。」


フィオナの軽い言葉に、レオンは少し目を丸くしたが、黙って何も言わなかった。そのまま彼女に案内されて、簡素な家の中へ足を踏み入れる。




招き入れられた家の中は、魔女の住処らしい独特の雰囲気に包まれていた。壁には乱雑に不思議な模様の刻まれた本が並び、棚には不規則な形のビンやフラスコがずらりと並んでいる。そのどれもが、奇妙な薬品や乾燥した植物で満たされていた。暖炉には柔らかな炎がゆらめき、その空気がレオンの凍えた手先をじんわりと温めた。


「ここが君の赴任地。」


フィオナは振り返り、少し茶化すように肩をすくめた。


「まあ、気に入らなくても我慢して。長くいれば慣れると思うから。」


レオンは家の中を見回した後、フィオナに向き直った。彼の目には、少しだけ安堵の色が浮かんでいた。一体どんな恐ろしい魔女を想像していたのやら。


「……ありがとうございます。」


その一言に、フィオナは少し意外な感情を覚えた。この少年は、不運な環境に置かれながらも礼儀正しさを失っていないらしい。どこか微笑ましさすら感じる。


「君の部屋はあそこ、少しあっためておいたから荷物を置いて休むといいよ。」


フィオナはそう言い残すと、また書物の山に埋もれた自分の作業スペースへと戻っていった。





その夜、レオンはあてがわれた部屋に設けられたベッドの上で、布団にくるまりながら胎児のように体を丸めていた。窓から差し込む月明かりが、彼の金髪を冷たく照らしている。彼はまだ、今日の出来事をすべて消化しきれていないようだった。


(この魔女の家で、僕の人生は終わるのか……)


静かで冷たい夜の中、レオンは目をそっと閉じて心の中で呟いた。



一方で、フィオナは夜遅くまでランプを灯し自分の作業机に向かいながら、チラリとレオンの部屋の方を見やった。


(……あんな子供がここに来るなんて。かわいそうすぎる。)



読んでいただきありがとうございます!完結まで毎日昼12時に投稿します。

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