エリオットが選ばれた理由
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ーアクア国 宮廷ー
父である王様には先に伝令で伝えてもらったからすぐに会えるはず。
グレースの父上は嫌がっていたが、一緒に国に戻ってこれて、うれしい!
侯爵家に借りた馬車と馬に強化魔法をかけ結界もかけたから馬車の中は快適だ、しかも短時間で到着できた。グレースに負担をかけたく無いからね。城下町に入ると速度を落とし、城の門をくぐる。
「グレース、緊張している?」
「はい。でも、エリオット様がいてくれるので、ひどく緊張はしておりません」
「うん。父上は君に会うのを楽しみにしていたから、我々だけの挨拶の時だけ仮面は外そうか」
「はい」
……かわいい。大丈夫と言いながら手が震えているじゃないか。握る手に少しだけ力を込めて言う。
「何があっても僕が君を守るから。安心して?」
「は、はい」
宮廷の馬車を降りる場所に到着した。
僕が先に降りて、グレースをエスコートすると、周りが少しだけざわめいた。
あ、そうか。グレースの仮面はみんな初めてだもんね。
ふふん。そのうち、たぶん、きっと、いつか、機会があれば、顔をとーーーくから見せてやるさ。
「おいで、グレース」
「は、はい」
先に伝令をお願いしていた侍従のヘンリーが側にやってくる。
「王太子殿下、グレース・シェラード様、お待ちしておりました。どうぞ、こちらで王様がお待ちです」
2人で謁見の間に通される。
頭をさげ、声を待つ。グレースもカーテシーのまま待つ。
「おお、おかえり。さあ、頭を上げて? 遠くから来てくれてありがとう。シェラード殿」
仮面の顔を上げるグレースを見ても誰も何も言わなかった。きっと王様が先に何か言っておいてくれたんだな。
「はい、王様、彼女が私の婚約者。グレース・シェラード嬢です」
すると、鈴の音のような声で
「陛下におかれましては、お初にお目にかかります。グレース・シェラードと申します。このような仮面をつけてのご挨拶、誠に申し訳ありません」
「うん、伝令から理由は聞いている。ここには、王太子に婚約者が決まったという事実を知らしめるため来てもらっている。だから大丈夫だよ?」
すると、ぐるりと周りを見渡し、王様は大きな声で言う。
「王太子の婚約者はグレース・シェラードとなった。異議のあるものは心して言うがいい。仮面については、深い理由があるのだ。時がくれば理由を知らせる。隣国の姫君だが、友好的なリトアモ国の侯爵家の出だ。何より、王太子が嫁にと望んでおるのだ。これに越したことはないであろう?」
すると、だんだん拍手が湧き起こる。パチパチパチパチパチ……!
全員が拍手をくれる。満場一致だった。
「よし、決は取った。おめでとう! 2人とも、末永く仲良くやるんだよ?」
「「ありがとうございます」」
「さてと、では場所を移そうか?まだ内密に話すことがあるんでしょう?」
と、王様は心なしか楽しげに見える。
「うんうん。じゃぁ、執務室でいっか。あそこは秘密が漏れないからね」
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「さぁ、こちらに掛けて、エリオットも一緒に」
「「はい、失礼します」」
すると、ドアが閉まる寸前。スルスルっと入ってくる1匹の白い猫。
「おや? 猫ちゃん……ん?? 何か咥えてる? 人形?」
王様は初めて見るトトスに首を傾げている。
ペっとトトスを落とすと静かに座っているホワイティ。
「ええと、父上、実は人形ではなく、妖精トトス殿なのです」
「ほ〜妖精とな?初めて見るよ。あ、立ち上がった。おお!歩いている」
「私もテーブルの上に乗せてくれる?話しにくいよ」と、トトス。
「あぁ、ごめんよ。これでいいかい?」と僕。
「王様、初めまして。僕がグレースに瞳を渡した妖精トトスです」
「初めまして。グレース嬢に瞳を渡したと?」
「はい、王様。グレースの仮面を外しますね」言いながらグレースに目を向けると、こちらに顔をよせてくる。はぁ、しぐさまでかわいい。
僕が仮面に手を触れると、コロンと落ちる。
「おお! これはなんと美しい。傾国の美女と言っても過言ではあるまい。それに、なんと、瞳が……虹色とは! ん〜〜〜わしがあと10年若かったら……っは!す、すまん」
最後の方までしっかり聞こえましたよ! 王様!?
「王様……いかに王様とはいえ、絶対、渡しませんよ?」
絶対に無い。
「わかっておる。すまん。やれやれ、王太子は心が狭いの〜」
しょんぼり気味になる王様を見て、少し溜飲が下がる。
グレースはそのやり取りを見て苦笑したが、トトス殿の方を見ると言った。
「あの、トトスから説明してくれる?厄災の話し」
「何?厄災とな」
少し、王様の雰囲気が変わる。
トトス殿は厄災の話を王様に説明した。
「……なるほど、それで急ぎ2人でこの国に来たのだな?」
「はい。王様。虹色の目がまず “何が起こるのか” を見つけ、影響が “どこまで” なのかを見定めます。そして、伴侶である私が後押しをします。トトス殿は魔力でサポートしてくれるそうです」
「うん、確かに、2人が離れていては難しい。一緒にいて正解だよ」
ホッとし、グレースを見ると目が合う。……かわいい。
「おほん。エリオットがグレースに骨抜きなのはわかった。さて、そこでだ。不思議に思ったことを聞いていいかい?」
「はい。なんでしょう」と、グレース。
「グレース、なぜエリオットが伴侶になったと思う? お互いの好みとか、そう言うのを抜きにして。だって、リトアモ国にも王子はいる。しかも、グレースと同い年の。なぜ、エリオットなのか……もしかすると、そこになんの厄災が起きるのか、ヒントがあるのかもしれないね」
「「「……」」」
さすがだ。さすが王様だった。考えもしなかった。僕はグレースに出会えた事が奇跡だと思っていたけど……ケガをヒールで治してもらっても、もし仮面が外れなかったら婚約者になんかなれなかったんだ。
そうだ、僕は選ばれたんだ。でも、なぜ?
「……我々の国の共通点。でも、厄災で国民が犠牲になって困るのは、グレースではなく、僕? グレースは見極める人。僕が後押しする人……」
「ん〜そうだねぇ、可能性としてはアクア国に犠牲が出そうだね……」
「はっ! 父……王様! モス火山では?」
「ふふ、父上でいいよ。そうか、モス火山か」
「はい、モス火山からネザネーの森を通り、アクア国に向かっては大河が流れております。もし噴火すると、アクア国に溶岩は川に沿って流れてきます。山の地形が、大きな川がアクア国に溶岩を運ぶかも……」
「私、この城から山を見てきます! この目で何かわかるかもしれません!」
「あぁ、僕も行くよ」
「みんなで行こう。山が見えるバルコニーはこっちだよ」
「ホワイティ。連れてけ」
「ナーウ」
みんなでバルコニーにでる。グレースは虹色の目で山を見る。
「……な、なんてこと。山からこちらに向かって真っ赤です……真っ赤に染まっています」
グレースは震えながらなんとか伝えてくれた。
僕は倒れそうになる彼女を支えながら王様を見る。
「やはり、火山か……では、どうするか」
「王様。至急、対策を考えましょう。大規模になりますが、工事をするのです」
「土魔法がいいな。使い手を集めるのだ。溶岩の流れは見えるか?グレース」
「ええ、トトス、待って……。はい。見えるわ。噴火するのは少し山が凹んでいる所のすぐ下あたり……で、流れてくるのは、やはり川に沿ってだけど、溶岩の量が多くて溢れている感じです。土魔法で堤防を作って流れを変えるのね?」
「よし、至急対策を練るのだ。王太子よ、指揮を任せる。やれるか?」
ポンと僕の肩に手を乗せる王様。
「は、はい。火山が起こると言うことを伝えた方がいいですか?」
「いや、まだ早い。まずは計画を立ててからだ。急ごう」