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6/8

婚約


 ⭐︎


 コンコン


「はい」エマがドアを開ける。


「お嬢様、お客様がお見えです。旦那様と奥様が先にお相手しております」


 見ると執事のカーターだった。


「? 誰かしら、今行くわ」



 ⭐︎



 ホールへ向けた階段を降りていくと、話し声が聞こえてきた。


(どなたかしら、っは! まさか……)


 だんだん足早になる。すると、父と母の後ろ姿が見える。


 まだ少年だもの、隠れて見えないわ。

 気持ちばかりが急いでしまう。


 あぁ、やっぱり。


「お待たせしました……来てくれたんですね」


 思わず近づくと両手を握られる。


「うん、会いたかった。グレース・シェラード嬢」


「はい、私もです。ようこそいらっしゃいました。……あの、お名前をお聞きしても?」


 すると、男の子は右手を後ろに、左手を横にし、右足を引くと丁寧にお辞儀をする。

「僕の名前はエリオット・ウィンダム アクア国の王太子です」


 私もカーテシーでお辞儀をする。

 殿下だから、もしかしてと思っていたけど王太子様だったなんて。


「今、お父様とお母様に話をしていたんだよ……よかったら庭を案内してくれないか?」


「はい。 庭を? ……わかりました。どうぞ、こちらです」


 チラッと見ると父も母も“行っておいで“と言う感じで頷く。

 しばらく庭を案内すると、エリオット様が止まる。


「? どうされましたか?」


「……どうか、聞いて欲しい」


「はい、聞きますわ」


 どうしたんだろう? 姿勢を正す。


「グレース・シェラード嬢 私と結婚して欲しい」


「!」


「出会ったばかりだと笑わないで欲しい。昨日君に出会ってから、僕はおかしくなってしまった。君が頭から離れない。君の瞳が忘れられない。今もこの心を落ち着かせるため早朝にも関わらず訪ねてしまった。心から愛している」


 愛の言葉が溢れている。その言葉に溺れそうな錯覚。

 震えてしまって言葉が出てこない。


「……」


「どうか、ハイと言ってくれまいか? グレース」


 あぁ、そんな風に跪いて、懇願されたら……。

「……は、はい」


「あぁ! ありがとう! もし断られたらきっと生きてはいなかった」

 ぎゅーっと抱き寄せられ、耳元で囁くように言う。


 手を引かれ、近くのベンチに座ると。


「これを受け取って? 婚約指輪だよ。デザインが僕とお揃いなんだ」


 殿下、顔が少し赤いわ。きっと私も……。


「うふふ、ありがとうございます。殿下」


「だめだよ? もう婚約したんだ、エリオットと呼んで?」


「…エ、エリオット……様?」


「うん、グレース手を出して? 指輪をはめるよ」


「はい……」


「エメラルドがグレース。君の色がなかなか無くて、オパールが僕の……わかる?」


 瞳の色だわ……。コクンと頷く。


「仮面、とっていい?」


「はい、お願いします」


 エリオット様が手をかけると、コロンと膝に落ちる仮面。


「やはり、美しい……。愛している、グレース」


「わ、私もです……エリオット様」


「本当? あぁ、嬉しい。このまま連れて帰りたい!」


 再び抱きしめられる。温かい。人の温もりって温かいのね。

 でも、ちゃんと伝えないといけないことが……。


「エリオット様、話さなければいけないことがあるのです」


「何?ここではだめなの?」


「いいえ、でも、私の部屋にいる者に会わせたいのです」


「え?何それ、グレースの部屋にいる者って」


「どうぞ、こちらです」


 ん?なんかエリオット様、少し怒っている? なぜでしょう?

 庭からぐるりと邸に入り、私の部屋に案内する。


「トトス。エリオット様をお連れしたわ。どうかもう一度説明を」


 すると、トンとテーブルの上に乗るホワイティ。


「ヤメレ、ヤメレ」


 ぺっと落とされるトトス。


「「……」」


「なんだ、乱暴者の猫だな。うん、そなたが伴侶殿か?」


「……伴侶。そ、そうだ。グレースの伴侶になるのは私だ」


 急に嬉しそうに胸を張るエリオット様。ん〜?さっきと今と、何があったんだろう?

 そして、トトスは先ほどの話をエリオット様にも聞かせた。



「厄災か……なるほど。グレースの瞳はその為にあると言うことか」


「そう。ただ、今回の厄災がなんなのか。それはわからない」


「仮面が取れたと言うことは、近いのですか?」


「仮面が外れた時期は厄災の発生には関係無い。伴侶に出会えば外れるだけ。ただ、まだグレースはエリオットと

会う時以外は仮面をつけている方がいい」


「どうしてですか?」


「きちんと婚約を各国に知らしめ、確固たるものにしてからじゃないと、君の瞳を見て知った者達から横槍が入るよ? 顔だって今まで見せなかったのに、こんなに美しいとか。特にエリオットは嫌だろ? みんながグレースを欲しがるんだよ? よその国のくせに〜とかさ。言われちゃう」


「……グレース。私と一緒に国に来てくれないか? まだ婚姻は先だが、父も会いたがっていたし、も、もちろん部屋は用意する。トトス殿もだ。厄災を一緒に追いやらなければいけないのだ。離れてはいられまい? で、できるなら例外で、こ、婚姻もできるかもしれないし……僕としては、その方がゴニョゴニョ」


 後半もちょっと聞こえてしまったわ……恥ずかしぃ。


「あの、父と母にも厄災の話をしたいわ。私もエリオット様と一緒にいた方がいいと思います。いつ、何が起きるのかわからない今、離れていたら伝えられないもの。ちゃんと見定めないと」


「そうだね、虹色の瞳の正確な意味を伝えよう。ホワイティ、行くぞ」

 トンとテーブルに現れるホワイティ。トトスを咥えると部屋から出ていった。


「ええと……ホワイティも連れていきましょう……ね」


「あぁ、猫を乗りこなすとは……ん? 違うな、咥えさせているから……。まぁ、と、とりあえず行こうか」


 2人揃って、父と母の所へ向かう。


『厄災』って恐ろしい響きだけど、きっと2人なら。大丈夫。


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