ゴミ掃除
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王様に会って話すため、部屋に戻り伝令をお願いする。
「さて、着替えてから王様の返事を待とうかな」
「で、殿下〜」
「あ、ヘンリー。今戻ったのか。馬を探すのにこんなに時間が?」
「もう、違いますよ〜。殿下が気にされていたお嬢様の情報を聞き出してきたから時間がかかったんです」
「……ヘンリー、ほ、本当に?」
ヘンリー! なんて素晴らしい侍従なんだ!
「はい、名前が『グレース・シェラード』様。リトアモ国の侯爵家のお嬢様です。現在年齢10歳、殿下の2つ下ですね。仮面は幼少の頃からで誰もお嬢様の素顔を見たものはいないそうです。とてもお優しいお方で、もう、使用人達は仮面をつけてても恐れるどころかお嬢様をベタ褒めでしたよ。」
「……あの美しい素顔を見た者がいない?あの美しい瞳も?本当にか……」
「え?殿下見たんですか? なんで? 美しいのですか? 瞳も?」
しまったと手を口にやったが遅かった。
「え〜、俺が必死に使用人に素顔を聞いて回って、誰1人知るものがいなくて殿下に申し訳ないな〜と思いながら帰ってきたのに? もう顔を見ていたと?」
「へ、ヘンリー、だが、名前を知らなかったのだ。ものすご〜く感謝をしている」
「まぁ、そうですね、あと婚約者もいないそうですよ。仮面取れないから気味悪いと誰も申し込まないそうです」
ちょっと不貞腐れ気味に話すヘンリー。何かお礼を考えておくか……。
でも、あの仮面が?
「……僕が触れたら仮面は外れた……『時が来たら外れる』と、……僕が『時』?」
仮面なのか、かけた魔法なのか。何かが僕を認めたという事か?
だとしたら、こんなに嬉しいことはないぞ!
あぁ、早く王様に伝えたい。
まぁ、その前に一つやらねばならない事があるが。
コンコン 「どうぞ」と、ドアを開けるヘンリー。
「王様がお会いできるそうです」
「わかった。すぐ行く」
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ーアクア国 宮廷・謁見の間ー
「父上、お時間をいただき、ありがとうございます」
「うん。本当は私の執務室で聞こうかと思ったんだけど、どうやら公にしたい事がありそうだと聞いてね。謁見の間で他の貴族にも聞いてもらおうと思ったんだよ」
「はい。ご配慮感謝致します。父上、わたくし今回『王太子誓約の儀』を無事に済ませる事ができました」
「うん、聞いている。おめでとう」
「ありがとうございます。しかし、無事終了し、帰る途中、暗殺者に襲われました」
「なんと、無事でよかった。ケガはないのか?」
「はい。ありましたが、治療していただき、今ここにいます」
「そなたにケガを負わせたと!? 王太子に! 何者か?」
「はい。暗殺者が口をわりました。そこにおられる継母上です」
一斉に皆の視線が王妃に集まる。
「何? ジュリア! 本当か?」
顔を真っ青にした継母上は立ち上がると、
「な、何をばかな事を。そんな事するわけないわ!」
「父上、暗部の者をここへ。それと、一緒に取り調べを行った騎士もここへ」
実は、父上の暗部の者も見ていたのを知っていた。彼らはどこにでも潜んでいる。
「暗部のアイシャでございます」「騎士クーパーです」2人は国王に礼をする。
「うん、楽にして。君たちは見聞きした事を話してくれればいいからね」
「「っは!」」
僕は一歩前に出て、クーパーに聞いた。
「クーパー、取調室で行った事を言える?」
「っは! まず、我々は殿下を襲撃した者達を全て捕縛し、城に帰還いたしました。ですが、肝心な主犯は誰なのかという部分で、犯人達が喋れなくなり、困っておりました。4時間後、殿下が城に戻られ、「魔法契約書」を書かされていると看破され、仮死状態にするキノコを使い、契約を無効にしたところ、すぐに白状しました」
「それで、主犯の名前は?アイシャも聞いた名前を言って?」
「王妃様です」「ジュリア様です」
「ちっ! 違うわ!! 私じゃない! 大体、魔法契約書を8枚も持っていないわ!」
「8人と何故知っているのですか?」
と、僕も継母上に聞く。
「ッヒ!! 違います!! 知りません!! 王よ、お聞きください!!」
王様の冷たい視線が王妃を見つめる。
「ジュリアよ。大人しくしておればよかったものを……愚かな。ここにいるものに告ぐ、王妃ジュリアは病死した。国民にもそう伝えよ。衛兵、ジュリアを連れて行き毒杯を持て」
「そ、そんな!王様!エリオットは生きているではありませんか!ご慈悲を!」
「愚か者!エリオットは王太子ぞ。王位継承1位の者に触れただけでも罰せられる者がおる中、お前は暗殺未遂を起こしたのだ! ひったて! 連れて行け!」
喚きながら連れて行かれる王妃。……これで、安心してグレースを呼べる。
「父上、もう一つお話があるのですが……ここでは、その」
「うん? わかった、執務室に行こうか。では、皆のもの、解散」
王様が席を立つと、家臣達は下がって行く。
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「それで? 婚約者でも見つかったかい?」
「!! ゴホゴホ! そ、その。ゴホ!」
紅茶を一口飲んだところでいきなり核心をついてこられてむせた。
「はっはっは、すまん。そうか〜どこの娘だ?」
「申し訳ありません、王妃に罰を言い下したすぐ後に、私の婚約の話なんか」
「ん? 気にするな。あやつ、ルーカスを産んでからお前を見る目が明らかに変わって行ったからな。気をつけてはいたのだが。まさか、自分で解決するとはな、よくやった」
王様は優しく僕の頭を撫でた。
「ルーカスにも言っておかないと、彼にとっては実の母親です。申し訳ないことをしました」
「いや、ルーカスはお前に懐いておる。わかってくれるであろう。で? お前の婚約者の話だ」
「は、はい。隣国の侯爵家の姫君なのですが、名はグレース・シェラードと言います」
「ん?聞いたことがあるぞ? 確か、隣国に仮面の姫君がいると」
「はい。いつもは仮面をつけております……ですが、素顔はとても言い表せないほど美しく……瞳も……。も、もう、それはもう!」
「なんと、誰も顔を見たことがないのだぞ? お前は見たのか!? そうか、そんなに美しいのか? いいのぉ〜、わしも見たい」
「そ、それで、隣国の女性を嫁にしたいのですが」
「ふふふ。いいであろう! お前が結婚したいなどと、いい知らせだ!」
「そ、それでは、隣国に言って挨拶をしてきたいと思います」
「おう! 全力で口説いてこい!」
「はい! ありがとうございます! 失礼します!」
僕は立ち上がると、勢いよく礼を言い頭を下げた。
王様は父親の顔をして、うんうんと頷いてくれていた。
早速、婚約の書面を準備しなくては。
あ、指輪もだな。お揃いがいいな。魔法も付与しちゃおうかな〜。
他に何が必要だ? 護衛は2人でいいよな?
あれこれ考えながら自分の部屋へ行くが、気持ちはすでに隣国へと向かっていた。