取り調べ
⭐︎
ーアクア国とリトモア国の国境ー
「殿下! お待ちをー!」
「あぁ、すまない。気が急いた」
「身体強化なら、私にも掛けていただけますか? はぁはぁ」
「ん?そうか、忘れてた。『ヘンリーに強化』」
「いやー違いますね。足が軽い。馬を探してきます、殿下はゆっくりしててください」
「馬は欲しいな。わかったゆっくり走っているよ」
「え?走ってるんですか?お座りになってお待ちしていただければ」
「いや、早く戻って驚く顔を見たいのでな」
少し悪い顔になって笑った気がする……。だが、そう思うのも仕方あるまい。
暗殺されそうになったのだ。
「そうですね、殿下が刺された時、肝を冷やしました。首謀者はわかっているのですか?」
「今頃騎士たちが捕縛したものを取り調べているはず……。首謀者は予想はつくが、まだしっぽは掴めないかもな」
必ず炙り出す、あの女狐。
「では、ちょっと探してきますね、馬。できるだけ、ゆっくり走っててくださいよ」
「あぁ、頼んだよ」
……はぁ。名前だけでも聞いておけばよかった。でも、自分が名乗れないのに聞けないよなぁ〜。
「かわいかった……」
思わず漏れるつぶやき。
シルバーブルーの髪は涼しげでサラサラと揺れ、あの瞳。
あの顔の造りに負けない虹色の瞳。
「すべてが見事に合致してまさに芸術品……天使かもしれない」
また漏れてしまった。
わからないのがあの仮面だ。『時が来たら外れる』と言っていたが、あんなにパカパカ外れてたら意味ないよなー。あの素顔見られたら周りが黙ってはいないだろう。あー、他の奴と婚約なんてしないで欲しい。こっちが片付いたらすぐにでも婚約を申し込もう!!やっぱり、ゆっくりなんかしてられない!強化!強化!
「隣国から嫁をもらうなんてよくある話だからな。うん」
自分に言い聞かせるように頷くといつの間にか城に着いていた。
「お、あれ? そうだった、あぁ、ヘンリーすまない……」
結構距離あるのに。強化魔法3重がけは凄まじいな。
門兵に後からヘンリーが来ることを告げ、中に入る。
すぐ地下に向かう。
徐々に叫び声と血の匂いがする。
取調室に入ると、『王太子誓約の儀』で同行していた騎士たちが気づき礼をする。
「あぁ、かしこまらないでいいよ。どう?吐いた?」
「はい、ですが、肝心の黒幕の話になると口を閉じてしまって聞き出せません」
1、2、3……殺し屋8人か。
「うん、あれ、魔法契約書を書かされてるみたいだから、無理だね」
「そうしますと、どう致しますか?」
「ん〜」
僕は腕を組み、しばらく考えた。
魔法契約書は一種の呪いだ。呪いを解くには、聖魔術師のデスペルが有効なんだが、聖魔術師が今日出会った彼女しか思い浮かばない……。
「だけど、こんな事に巻き込みたくないし」
独り言を言う。
あとは、あまりやりたくないが
「仕方ない、殺そう」
「え?吐かせる前に殺しちゃうんですか?」
「うん」
見ると、僕の言葉を聞いて目を見開いて驚愕している様子の殺し屋達。
「んと、君たち驚いているようだけど、すぐ極刑でもおかしくないんだよ?『王太子誓約の儀』を邪魔したんだから。まぁ、邪魔にならなかったけどね?儀式は成功したから」
まずは騎士達に説明する。
「死んだら呪いは解けるから、一度、仮死状態にします。そこから生き返らせる」
取調室の棚にある箱をあけ、干しキノコを取り出す。
「このキノコが仮死状態にしてくれるから、食べさせて。3分死んだら勝手に起きるはず。ただ、起きる時がものすご〜く苦しいらしいけどね」
騎士達はキノコを手にすると、殺し屋達の口をこじ開け、無理やり食べさせ始めた。
3分後。
あたりをつんざくような悲鳴が響き渡る。
8人の阿鼻叫喚。
30分後。
ふぅ、終わったね。耳栓してても聞こえるとは。
「ん〜うるさかったね。1人ずつ食べさせればよかったかな」
「それはそれで、後から食べる者が拒否するでしょうから大変だったかもしれません」
そっか、難しいね。
「じゃぁ、取り調べの続きお願いしていい?」
と、僕が言うが早いか、殺し屋達が一斉に話だす。
「お、お妃様です」「そうです。ジュリア様に頼まれました」
殺し屋達は身体中の穴という穴からいろんな汁を出してて臭うねー。
だからこれやりたくなかったんだよね。
「そっか、やっぱりね」
鼻をつまみながら、僕はゆっくり殺し屋達の前に行く。
「ありかとう。きみたちのくちからききたかったんたー。まほうけいやくしょって、てにいれるのたけてもたいへんなのに、8人ふんてしょ? そんなにたいりょうに、そろえられるなんて、きかなくてもたれなのかわかるよ。そっちのせんてしらへてもよかったんた。てもね」
にっこり笑って言ってやった。
「おうたいしあんさつを、くわたてたやつらか、てぬるいとりしらへされたなんてしれたら、あんさつしゃか、あとをたたなくなって、ぽくゆっくりねむれないしゃない?」
鼻をつまみながらだから変な声だけど、ちゃんと聞こえたかな。
「じゃ、僕、王様に用があるから。こいつら使役の山にでも送っておいて」
左手をフルフルして命じておく。
「「「っは!」」」
「ありがとう、君たちの口から聞きたかったんだー。魔法契約書って、手に入れるのだけでも大変なのに、8人分でしょー?そんなに大量に、揃えられるなんて、聞かなくても誰なのかわかるよ。そっちの線で調べてもよかったんだ。でもね」
「王太子暗殺を、企てた奴らが、手ぬるい取り調べを受けたなんて知れたら、暗殺者が、後をたたなくなって、僕ゆっくり眠れないじゃない?」
以上が鼻つまんで話した内容でした。




