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第6話 昔話

 エルフ領の王都ヴェーヌ。『王都』というくらいだから、もちろんそこに国王がいる。

 しかし、その国王は、王の叔父でもあるローランド公爵の傀儡だと言われていた。

 もちろん実際のところの真偽は不明ではあるが、エルフ領に住む国民なら、そんな噂を1度は聞いた事があったりもした。


 傀儡だと言われていた理由はあった。

 現国王は幼い頃に国王の座についたため、その傍らには常に摂政としてローランド公爵がいたからである。

 ただ、王が成人してからはローランド公爵は一線を退いている。

 国民からしてみたら「王も自分自身でしっかりと(まつりごと)をするようになったんだな。良かった良かった」とホッと一息つく事である。


 そう、本来ならば、それで終わる話だったのだ。


 今回起こった事件。

 それは、王が自らの傀儡でなくなった事を不服としたローランド公爵が謀反を企てた、という事らしい。


 ローランド公爵の私兵だけでは、謀反を起こすには戦力的に不足しているため、ローランド公爵は密かに動き回っていた。

 各地域にある冒険者ギルドに助力を求め、それを取りまとめ、国家に匹敵するほどの戦力を集めつつあった。


 そして、自らが持てるツテを最大限利用し、ついには勇者レイナ・ベレージナすらも戦力に取り入れるのだった。


 このままでは、王宮は何も知らないまま謀反を起こされ、国家転覆の危機に瀕していた。


 しかし、その企みは寸前のところでバレる事となり、ローランド公爵は国家反逆罪にて処刑されたのだった……



「……川田、たぶん誰かに嵌められたわね」


 坂上から渡された夕刊を読んだ私の感想はそんな感じだ。


 あ……ちなみに、さっき説明したのは、長々と書かれたいた新聞の内容をわかりやすく要約した感じね。


「やっぱそう思うよな?同窓会の時の川田『政権を取りたい!』みたいな感じじゃなくて、むしろ逆な印象があったもんな」


 川田が坂上とはどんな話をしたのか知らないけど、確かに『権力争いにはもう疲れた』みたいな感じの事を私には語ってたしね。


「まぁ川田が語った事が、ローランド公爵としての本心だったのかどうかはわからないけど、少なくとも私には、嘘をついてるようには見えなかったかな」


「だよなぁ……あ、お姉ちゃん!酒のおかわり頂戴!」


 マジメな話の最中だというのに、若いウェイトレスの子を捕まえて酒を注文する坂上。

 視線が女の子の胸に行っている時点で、どっから見ても立派なエロジジイだ。嫌な年の取り方したもんだ。


「視線がいやらしいぞ坂上……」


「何が悪い?前世での作り物じゃない、モノホンのファンタジー衣装のメイドさんを堪能できるのは、この世界に転生してきた特典みたいなもんだぞ!」


 開き直りかよ!?そんな事熱弁されても「キモイ」以外の感想出てこねぇよ!


「あ~はいはい……この世界に転生して欲望に忠実に生きるようになったってのはわかったよ。ってか隠してだけで、前世で私見て欲情とかしてなかっただろうな?」


「安心しろ、倉田は眼中にすら入ってなかった」


 し、失礼なヤツだなコイツ……ぶん殴ってやろうかな?

 いや……「欲情してた」とか言われてもキモイから、どっちにしろぶん殴るんだけど、乙女のプライドというか何というか……もう乙女って歳じゃないかもしれないけど。


「あの時の俺は、沙川さん派だったな」


 コイツも沙川か。

 何であの根暗女そんなに人気あったんだよ?


「ん?アレ?沙川派ってわりには同窓会の時、愛花を『沙川なんじゃないか?』とか疑ってなかった?」


「あ?そりゃ可能性の問題だ。アイツが疑わしかったから『全面的に信用はしねぇぞ』って意味で言っただけだ」


 まぁ確かに坂上の言う事は正しい。

 今のこの世界で、誰が誰に転生しているのか、なんてわからないし、名乗ったところで本当にそうなのかって保証は存在しない。

 相手の言った事を信用するかどうかは本人次第だ。

 私がコイツを『坂上だ』って思っているのは、私がコイツと愛花の発言を信用したってだけの話だ。

 というか、騙されていたとしても「へぇ~坂上じゃなかったんだ……で?」で済む話なのだ。つまり、騙されたところで不利益になるわけじゃないので、とりあえず信用している、という感じだ。


 坂上が私の事を「倉田」と呼ぶのも、たぶんだけど私と同じ理由だろう。

 コイツもギルドマスターやってるんだ。生きていく上での損得勘定はしっかりしてる。でなきゃギルマスなんてなれてないだろうし、そもそも下手したらこの歳になる前に死んでいただろう。


「でもまぁ……あの雰囲気は飯島なんだろうな」


 あ~……『全面的には信用してない』けど、与えられた情報だけ見て『断片的には信用してる』って感じなのかな?


「愛花……前世から、あんな感じで無駄にテンション高くて明るかったからね……」


「ああ……アレを『クールでミステリアスだった沙川さんが、飯島を装って演技してた』ってんなら、沙川さんのイメージ大暴落だしな」


 むしろ沙川に「愛花のマネしてテンション上げて」って命令したら、舌噛んで死ぬ事を選びそうだな。


「……おっと!うっかり話がズレて昔話になってたな。話を戻そう」


 話がズレたの、お前がイヤらしい視線で酒注文したのが原因だろ?

 いや、それをツッコんだ私にも原因はあるのか?


「倉田。お前、飯島と……勇者レイナ・ベレージナとしてのアイツの親交ありそうだったよな?連絡手段とかねぇのか?」


 あったら苦労しない。


「愛花の気が向いた時に、よくこのギルド支部に来るってだけだ。私の方からコンタクト取った事はない」


 一連のやりとりの後で、二人して大きなため息をつく。


「今回の事件。下手したら俺達にまで飛び火してくるぞ」


「ああ、わかってる。一番ヤバイのが愛花だって事もな……」


 そう、今回の『ローランド公爵・国家反逆罪事件』の企みがバレた出来事……新聞に書かれていた内容とは『ローランド公爵は冒険者ギルドクルーク王国支店にて、勇者レイナ・ベレージナ及び各国のギルドマスター達と密会。ローランド公爵の行動に不信を持っていた王宮兵士の一人が尾行をしたところ現場を目撃し通報した事で謀反を企てている事が発覚した』という一文。


 完全に同窓会の時の事だ。


 たぶん、ローランド公爵を疎んでいた連中によって、罪をでっちあげるために利用されたんだろうけど……

 利用されたからには何かしらの行動を起こしてくるだろう。

 でなければ連中の面子が立たない。

 つまりは、新聞に書かれていた『勇者レイナ・ベレージナ及び各国のギルドマスター達』にも、何かしらの裁きがあってもおかしくはないのだ。


「ギルマスとはいえ、他国にまで顔が知れ渡っているとは思えないから、ワンチャン俺達は大丈夫かもしれない……まぁ用心するに越したことはないがな…………ただ、飯島に関して言えば……」


「『勇者レイナ・ベレージナ』は、顔も名前も全世界規模で知れ渡ってるな……」


 そして愛花が新聞を読んでいる場面を見た事はない。


 私達が今できる事は、川田の冥福を祈る事と、何も起きない事を祈る事だけなのかもしれない。


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