第3話 前世の証明
「はい!何はともあれ、皆さん遠路はるばる集まってくれてありがとうございます。ここにいない沙川に代わって私が開会の音頭を取らせてもらいます」
混乱しまくった現場を落ち着かせるためか、愛花が挨拶を始める。
「この年齢にもなると、隠してるのもどうでもよくなってきたから自己紹介するけど、生前の名前は飯島愛花……50年近く経ってると忘れてる人もいるかな?まぁそれはそれで別にいいかな?で、コッチの世界での名前はレイナ・ベレージナね。好きな方で呼んでもらっていいよ」
そしていきなり始まる自己紹介。
何がしたいんだ愛花?
「さて……んじゃあ次は朝香どうぞ」
……は?何で私にふるんだ?
「待て愛花。コレ、もしかして一人一人自己紹介してもらうって流れにしてない?」
「そうだよ。だって、誰が誰だかわからないと同窓会の意味ないじゃん?」
いや、そりゃあそうだけどさ……
でも、前世でのクラスメイトっていっても、この世界だと全員初対面みたいなもんで、多少なりとも警戒心ってものがあるだろ?
まぁ、最初は「あんな怪文書みたいな同窓会通知見てノコノコやってくるヤツなんて、能天気なヤツしかいないだろ」とか思ってたけど、ここに来た連中はそんな感じではない。
たぶんだけど、誰にも話した事ないのに『お前が転生したきたって事知ってるよ』と言わんばかりに日本語で書かれた謎の手紙が届いたら、それは『お前のどんな些細な情報も握っているぞ。バラされたくなければ~……』って続く脅迫文にしか思えないだろう。
無視したら何をされるかわからない。脅迫文を送って来ている敵対者の正体もわからない。
問題を解決するためのヒントは手紙に書かれている日時と場所のみ。
うん。警戒しながらも指定された場所に行ってみるしかないよね。だって不安を取り除くためには、とりあえずは指示従うしかないのだから……
つまりココにいる連中は皆、ある程度は腕に自信のあるヤツなのだろう。敵対者さえわかれば力ずくで解決できる自信のある連中。
その証拠に、皆しっかりと武装してきている。とても本気で同窓会を楽しもうって格好じゃない。
たぶんレベル上げせずに、まったりと異世界ライフをエンジョイしちゃってた連中はここにはやって来れずに家で震えてるんじゃなかろうか?
……ただの愛花のいたずらとも知らずに、何とも可哀想な事だ。
「……倉田朝香だ」
既に生前の名前は愛花にバラされているので今更感はあるが、とりあえずは愛花に言われた通り自己紹介だけはしておく。
いちいち文句つけて口論するのも面倒臭い。
愛花が何をしたいのかわからない現状、必要最低限の事だけ言って、あとはちゃっちゃと後ろに下がって様子見に徹するのが一番だろう。
「え?それだけ?もうちょっと何か喋ってくれてもいいんじゃない?」
逃げるように引っ込もうとしている私を、愛花が引き止める。
勘弁してほしい……
「もしかして、ここにいる人達が、本当に元クラスメイトかどうかを疑ってたりしてる?その辺は信用してくれていいよ。ここにいるのは皆、修学旅行でのバス事故に巻き込まれた人達だよ……部外者は一人もいない」
「だから、何でそれがわかるんだよ?」
おっと、心の中で入れたツッコミがおもわず口に出ちゃったかと思うくらいに、私が思った事と同じツッコミ入れてくれた人がいたよ。
「勇者レイナ・ベレージナ。アンタに質問したい事は1つや2つじゃ済まないが、まずこれだけは答えてくれ……何で、誰にも言っていない生前の名前がわかる?」
アイツは……どっかの町でギルドマスターやってるヤツだな。前にギルドマスターが集まって会議した時にいた気がするから間違いないだろう。
……名前と、どこの町のギルマスかは忘れたけど。
「ん~……何で、って言われても、わかっちゃうもんはわかっちゃうんだ、としか言えないかな?『そういうもんだ』って納得してもらえないかな?坂上健吾君」
なるほど、アイツは坂上か……ご愁傷様。
愛花は相手するだけ損なんだよ。本当に『そういうもんだ』って納得しないとやってられないような存在なんだよ。
まだまだ扱いがわかってないな。
「……わかった。納得はいかないが、語る気がないのなら聞くだけ無駄だな。じゃあ質問を変えよう……この同窓会の通知をよこしたのはオマエだろ?」
同窓会の案内通知を手に持ってヒラヒラさせる坂上。
やっぱ私じゃなくても、主犯が愛花だって事はわかるよね。
「差出人は沙川ってなってるじゃん。何を根拠にそんな事を……」
「一連の言動を聞いていればわかるだろ。この場で、前世での名前を全て把握してるのはオマエだけだ。この手紙を転生者に的確に届けるなんて芸当ができるのはオマエしかいないだろ?」
愛花の言い訳を途中で遮って、坂上は問い詰めていく。
「『主催者の沙川が来てない』と言い切ったのは、この世界での沙川を知っているからだろう?ここにいる全員が、この世界での沙川がどんな容姿なのかなんて知らない。『飯島愛花』を名乗ったオマエが『沙川マヤ』だったとしても、それは誰もわからない……それか、既に沙川は死んでいて、それがわかっていて、この同窓会に来ない事を知っていて差出人の名前として利用したか……どちらにしてもオマエは俺達を偽っている。そんなヤツを簡単に信用する事はできない…………何が目的だ?」
そりゃあそうだ。この世界には、前世の身分証明書なんて存在しない。っていうか容姿だって全然違う。
愛花とは長い付き合いの私ですら『100%本物の愛花』なのかと言われたら、首を傾げるだろう。
「鋭いなぁ坂上君。伊達に歳くってないね……前世での感じとだいぶ違ってる。わかった!観念する!確かに同窓会の通知を出したのは私だよ」
珍しく愛花が秘密をバラしたな……って事は、実は隠すほど重要な事じゃなかったって事か?私もさっき、もうちょっと突っ込んでれば、愛花のやつ喋ってたのか?
……愛花にとって何が重要なのかよくわからんな。
「『何が目的』って言われても、私はただ純粋に同窓会したかっただけなんだけどなぁ……沙川の名前使ったのだって、沙川ってモテてたじゃん?だから私の名前使うよりも、沙川の名前使った方が人集まるかと思ってさ」
うん。その発言は嘘だな。
沙川の名前使ったら、男連中は釣れても女連中は誰も来ない可能性高いだろ。
「ちょっと待て。そんな理由で名前偽ったのかオマエ?」
「実際集まったじゃん。まぁ女子は少ないけど男子には効果あったって事でしょ?」
本当だ!言われてから気付いたけど、女って私と愛花と、あと……前世の誰なのかわからないけど、もう一人だけで、あとは全員男だ。
う~ん……男って何年経っても、っていうか一回死んでもスケベ心ってなくならないもんなんだねぇ……