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第2話 正体バレ

 沙川(さがわ)マヤ。この同窓会の主催者として、お知らせの通知に書かれていた名前だ。


 この世界で、どんな人間に生まれ変わっているのかは知らないが、少なくとも前の世界……生前の彼女はちょっと苦手なタイプだった。

 別に何かされたわけではない。

 むしろ何もされてないというか……下手したらまともに喋った事すらないかもしれない。

 とにかく『喋りかけてくるな』ってオーラを常に発しており、そのオーラが強い時にうっかり話しかけてしまうと良くて無視。悪いと睨まれて舌打ちされる。


 私はそんな空気を察して、基本話しかける事はなかったので被害はなかったのだが、空気読まずに話しかけて被害に合った子達は、軒並み沙川の事を嫌っていた。

 たぶんクラスの女子の3分の2くらい……いや、ほぼ全員に嫌われてたんじゃないかな?彼女?


 ただ、顔面レベルはそれなりに高く、スタイルも良かったせいか、クラスの男子からは『ミステリアスなクールビューティー』みたいな感じで人気があったりもした。

 まぁそれが、クラスの女子から余計に嫌われる要因にもなってたんだけどね。


 ともかく、そんなクラスとの関わりを断ってたような奴が、転生したクラスメイト皆を集めて同窓会?怪しさしかないわ!?

 こんな怪しい集会にノコノコとやってくる馬鹿いるの?


 ……と、思っていたんだけどね。


「10人以上はいるわね……」


 ギルドマスターの執務室を出たすぐの廊下。

 建物の二階に存在するその場所は、吹き抜けになっており、一階にある酒場の様子を伺う事ができる。

 本来は、荒くれ者が集うギルドの酒場では揉め事が多く、そのギルド内での一番の実力者であるギルドマスターがすぐに仲裁に入れるようにしてある設計なのだが、今は完全に下の様子を覗き見するだけの場所と化している。


 通知に書かれていた同窓会当日。

 愛花と二人で、上からコッソリと様子を見ていたのだが、思ったよりも多い人数が集まっているようだった。


 酒場は本日貸し切り状態にしてある。

 スタッフには、同窓会通知を持ってる奴だけを中に入れるように指示はしてあるから、少なくともあそこにいる10数人は、間違いなく通知を受け取った元同級生達なのだろう。


「勝手に名前使えば様子見くらいには来るかと思ったんだけどなぁ……やっぱ来てないか……」


 集まった10数人を見下ろしながら、愛花がボソボソと何かをつぶやく。


 誰が「来てない」って?

 っていうか「名前を勝手に使う」とか聞こえたような気がしたけど……まさか。


「この同窓会の通知……もしかしてアンタが……」

「いつまでもここにいても仕方ないし、私達も下の階に行こうか!」


 はぐらかしたわね……

 まぁ愛花が何をしようとしているのかなんて、詮索するだけ無駄だって事は、数十年の付き合いでわかってる事だけど、何か釈然としない。

 愛花の放った文言から察するに、勝手に名前を使われた沙川が、怒ってここに怒鳴りこみに来るのを狙ってた感じ?つまり愛花は沙川に会いたがっているって事?何で?生前、沙川とそんなに接点あったっけ?

 本気でわからない……いや、今世での愛花が考えてる事なんて、理解しようとするだけ無駄だ。今は愛花の言動を聞かなかった事にして、下にいる元同級生と思われる連中と合流しよう。


「よ、っと」


 ってオイ!?普通に階段から下に降りるのかと思ったのに、愛花のヤツ手すりを乗り越えて、そのまま飛び降りやがった!?

 仕方ないので、私も愛花に続いて飛び降りる。


 前世ではこんな事絶対にできなかったが、ステータスが存在するこの世界では、この程度の高さから飛び降りても何ともない。

 レベル上げしてステータス高くしておいたおかげで、おもいっきり着地しても足が痺れるなんて事すらないのはありがたい。


 そして、案の定というか何というか、いきなり2階から飛び降りて来た私達を見て、全員が静まり返っている。

 いや、この静まり方は元々か……『同窓会』と言って集められたっていっても、全員生前とは容姿が変わっている。「お前、もしかして〇〇か!?おいおい老けたなぁ」とか言うような、相手を予測して喋る、という行為が不可能な状態だ。

 隣にいるヤツが誰なのかも、まったく想像できないのにうかつに話しかけて、一方的に個人情報曝け出す、なんて誰もしたくないだろう。

 っていうか、ここに集まってる奴等本当に全員が転生者なのか?って疑問もあるから、どう話すべきかもわからない。

 必然的に探り合いの会話すらできずに黙って様子見、という結果になっているようだ。


 同窓会っていうよりお通夜会場だなコレ。

 愛花のヤツ、この空気どうするつもりなんだ?


「皆どうしたの?暗いなぁ~。久しぶりに会ったんだし、もっと談笑しようよ。せっかく立食パーティーっぽく酒場をセッティングしたんだし……朝香が」


 おい!!?自分の正体バラす前に、何をシレっと私の正体バラしてんのよ!?


 案の定周りがざわめき出す。「アサカ?ここのギルマスが?」とか「あさかって……倉田さん?」とか小声でつぶやいてるのが聞こえてくる。

 ……いや、ざわついてる理由は、私の正体が『倉田朝香』だったって事以外にもあるなコレ。「勇者レイナ・ベレージナ……?」「英雄ベレージナがなんでここに……」……聞こえてくるつぶやきの半分は愛花にも向けられている。


 そりゃあ世界的に有名な勇者様が、いきなり二階から降ってきて、私の正体暴露しだしたらこうなるよね。


「それで?キミは誰の生まれ変わりだ?生ける伝説、勇者レイナ・ベレージナ……30年くらい前に一度お目にかかった事はあるが、その時と容姿が変わってないのも気になるところだな」


 再び会場がざわつく。

 正直私も驚いている。

 愛花みたいな伝説的なのとはベクトルが違う。

 部屋の端からゆっくり歩いて来ながら、愛花にむかって話しかけてきたその人物は、今は一線を退いているが、昔は「次期国王候補」と言われ、凄まじい跡取り争いをしていた人物だ。種族はエルフだが、人間の私でも知っている大物だ。


「ローランド公爵……か」


 愛花のヤツ、こんな大物にどうやって同窓会通知届けたんだ?っていうか、公爵も元同級生なの?


「そっかぁ……あれからもう30年経つのか……あの時から比べたらだいぶ大人になった感じだね……川田健一(かわだけんいち)くん」


 今までにないレベルで会場がざわつく。

 私も再度驚いている。

 よりにもよってコイツ川田かよ……人って変わるもんだな。


「ちょ……ちょっと待て!?どうやって私の前世の名を知った!?」


 ほんとソレな。私もソレ知りたい。愛花は教えてくれないけどね……まぁ何はともあれ川田、正体バレご愁傷様。


 っていうか愛花……まさかこうやって一人一人正体暴露していくつもりか?

 時間かかるから、そういうのはサラッとやってくれないかな?


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