番外編5 ~出席番号14番 坂上健吾~
オッサンがルーナ・ルイスに会った、って事を教えると、飯島は物凄い速さで酒場を飛び出して行った。
「何だアイツ?ルーナ・ルイスの目撃情報なんて数十日前の事だぞ?今更走っても結果は同じだろうよ?」
「それだけ沙川に会いたがってるんだろ、愛花は……そんな事もわからないから馬鹿って言われるんだぞ坂上」
何でこのクソ女は一言多いんだよ?
そもそも、コイツ以外からは、面と向かって「馬鹿」とか言われた事ねぇぞ。
言い返してやりたいところだが、俺は、中身がガキのままのコイツとは違って、大人なのでやめておく。
……とりあえず口喧嘩になる前に撤収しておくかな。
「まぁ何だ……今日の用事は、土屋の事を知らせに来ただけだから、用も済んだし帰るわ……飯島のせいで場も白けたしな」
「おう帰れ帰れ。私の至福のアルコールタイムの邪魔だ」
だから何でこのクソ女は常にケンカ腰なんだよ?
まぁいい。聞かなかった事にしといてやろう。
俺は片手だけを上げ、振り返らずに手を振りなが酒場を出る。
夜風がやけに冷たく感じる。
酒場を出た後は、町の出入口には向かわずに、人が居なさそうな路地裏へと歩を進める。
路面に転がっている、腰掛けるのに適した木箱が目に着いたので、腰を下ろす。
「土屋……オマエ。本当に死んじまったのかよ……」
一週間近く行方不明になっている、という意味は理解している。
水も食料も十分には持って行ってないだろう土屋が、それだけの間発見されていない、という事は、つまりはそういう事なのだろう。
いや!もっとプラス思考で行こう!もしかした土屋のヤツ、チート能力手に入れる方法がわかって、俺達に黙ってチート能力手に入れてる可能性だってあるんじゃないのか?
「はぁ…………」
自然とため息が出る。
ふと視界のスミ、暗闇で何かが動く。
こんな時間に路地裏で何かやってる奴に、まっとうな奴はいない。
ギルドの仕事に治安維持も入っている。
ここは一つギルドマスターとして、何か良くない事をしてるだろうヤツにビシッと注意しといてやるかな?……俺の担当エリア別の町だけど。
まずは目を凝らして、不審人物の様子を伺ってみる。
「……1人、か?密談とかじゃなさそうだな。待ち合わせ中か?」
色々と推理してみるものの、どれが正解なのかまったくわからない。
そもそも、傍から見れば俺も立派な不審人物だ。
よく見ればアイツも、俺と同じ様に座りながら黄昏てるだけにも思えてくる。
「……ん?アレ?あの格好、どこかで見たような?」
不審人物が身に着けているのは、ボロボロのフード付きマントだ。
その格好、ちょっと前まで酒場で見てたぞ俺。
って事は、アレって飯島か?
何だよアイツ。物凄い勢いで飛び出してったと思ったら、こんなところで寄り道して黄昏てたのかよ?
「おい飯島!こんな場所で何やってんだよ?」
声をかけながらゆっくりと近づいていく。
俺の存在に気付いた飯島も、ゆっくりとコチラを振り向き
…………誰だコイツ?飯島じゃない。
「今アナタ……私をどなたと間違えました?」
うっすらと入り込んでくる月明り。
その光に照らされる髪の色は美しい銀色をしていた。
「……マジかよ?」
思わず言葉がもれる。
「誰かと思ったら坂上君ですか。随分と老けましたね」
手配書以外で初めて見た『銀髪の堕天使』ルーナ・ルイス……つまりは沙川マヤ。
やっぱりコイツも飯島と同じだ。
見た目が若いままだし、俺が前世の誰なのかもバレてる。
「お……オマエは随分と若作りだな沙川……」
動揺を隠しつつ皮肉を返そうとしたが、若干どもってしまう。
クッソ……いきなり出てくるのは卑怯だろ。もっと色々と段取り踏んでから出て来いよ沙川。
「飯島が探してたぞ。会ったか?」
ここでこうしてる時点で会ってないのはわかってはいたが、とりあえず沈黙は嫌なので、適当に話題をふっておく。
「そうですね……レイナさんには悪い事をしたと思っています。ただ、私も今はやるべき事があるんで、いずれは迎えに行く、と伝えておいてください」
「言いたい事は自分で伝えろよ。俺だって飯島と簡単に会えるわけじゃねぇからな」
そう。どこで何してるのかわからんけど、向こうから会いに来ないかぎりは飯島と接触すらできないのが現状だ。
……ってヤバ!?うっかり会話終わらせちったよ。
こういう不気味な奴と対峙した時、沈黙が一番怖いんだよな。
「ちなみになんだけどよ……その伝言を飯島に伝える約束をした場合、オマエ等みたいなチート能力を俺にもくれたり~……ってな事にならないか?」
一か八か聞いてみる。
っていうか、聞くだけならタダなんだからいいだろう。
「残念ながら私達はチートはしてませんよ。データの穴をついてきた結果こうなっただけです……これはゲームなんです。チートなんてズルはいけませんよ」
コイツ等がチートしてないとか嘘臭ぇな……
「つまり……オマエ等みたいに強くなる方法も教えてもらえねぇって事か?ズルぃなぁ~ちょっとくらい教えてくれてもいいじゃねぇか……元同級生のよしみってやつで」
俺の言葉を聞いたルーナ・ルイスは、小さくため息をついて、夜空を眺める。
「記憶というのは、肉体と魂、どちらに付随すると思いますか?『脳が存在するから肉体』と結論付けたくもなりますが、幽霊の逸話等を考慮すると、肉体を有していなくても記憶を宿しているようにも思えますよね?」
突然意味のわからない話を始めるルーナ・ルイス。
沙川って元からこんな不思議ちゃんだっけか?
「色々と実験した結果なのですが、記憶はどちらにも宿っているようなのです。そして、肉体の記憶は魂に、魂の記憶は肉体に影響する……ただ、他人の肉体に別の魂を入れると、記憶の混同がおこり、それに精神が耐えられなくなって精神崩壊を起こす、という事まではわかりました」
何かよくわからんけど、物騒な事言い出してないか?大丈夫か沙川?主に頭が。
「魂について理解するためには、まだまだ色々と実験が必要なのですよ…………そして私は今、次の実験のために『転生者の魂』が欲しいのですよ」
喋りながら、ゆっくりとルーナ・ルイスがコチラに近づいて来る。
何だろうか?嫌な予感しかしない。
「な……なぁ沙川。何を言ってんのかよくわかんねぇんだけど……俺にもわかるように説明してくれねぇか?」
今更、全力で逃げ出したところで手遅れだって事は理解できる。
沙川の気が変わって、見逃してもらえる僅かな可能性に賭けて、とぼけた返事をする。
「ですから『同級生のよしみ』で教えてあげてるんですよ…………坂上君が死ぬ理由を」
あ、ヤバイ。死んだわ俺。
「さようなら坂上君……『サイレントデス』」
耳元で囁かれた聞いた事もない魔法名。
その言葉を最後に、俺の意識は途切れたのだった。




