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第16話 土屋君の行方

「土屋が行方不明になった」


 またも、週に一度の楽しみである飲酒デイに、私のギルドに併設された酒場にやってきた坂上が、開口一番におかしなことを言ってくる。


「5日くらい前に『野暮用があるから古の幻林に行ってくる』ってギルドの職員数人に言って出て行ったっきり戻ってないらしい」


 古の幻林?何でそんな場所に?

 強くなるためのレベル上げにしても、あそこの魔物の強さを考えると、ちょっと割に合わない。

 ちょっと背伸びした場所でレベル上げしてて、魔物にやられた、とか?

 う~ん……慎重派な土屋君とは思えない行動だな。


「この前、ルーナ・ルイスが沙川マヤだ、って話しただろ?んで、チート能力の鍵はその沙川だ!ってなって、当面の目的はルーナ・ルイスを探す事、みたいな事言ってただろ?」


 そういやそんな事言ってたなぁ……いくら『沙川』が、元クラスメイトだって言っても、今の世界で死生観がバグったであろう『ルーナ・ルイス』に接触するなんて、恐ろしい事考えるなぁ~とか思った記憶がある。

 ……あの時も飲んでたから、微妙に記憶が定かじゃないけど。


「こっからは俺の推測なんだけどよ……土屋のヤツ、ルーナ・ルイスが古の幻林にいるって当たりをつけたんじゃねぇか?」


 そんだね『俺の推測』とか付けなくても、さっきの前振り聞いてれば誰でもそう思うよね。


「古の幻林が何だって?あそこの魔物はバカみたいに強いから、あまり近寄らない方がいいよ」


 突然、酒を片手に持った怪しい人物が、私達が座るテーブルにやって来る。

 ボロボロのフード付きマントを目深くかぶっていて、顔はよく見えないが……この声って。


「はぁ~……5億の賞金首が、堂々とギルドの酒場で何やってんのよ、愛花……」


「何!?この不審人物、飯島なのか!?」


 バカ坂上、気付いてなかったのかよ?声で気付けよ。


「だからこうやってホラ。フードで顔隠して来たんだよ。いくら私が能天気でも、バレたら大騒ぎになるって事くらいわかってるって」


 その格好は余計に怪しいっての……

 まぁ怪しすぎて、皆「我関せず」の精神で無視をしてる感じだから、ある意味正しい行動なのかもしれない。


「それに、あのルーナ・ルイスも、昔はこんな格好でギルドによく出没してたんだし。高額賞金首を受け入れる伝統とかあるんじゃないの?このギルド」


「そんな、私がここのギルマスになる前の話を持ち出しても知らないっての……前任者がどうだったかはわからないけど、少なくとも私がここのギルマスに就任してから約10年は、高額賞金首と酒を共にした事はないわよ」


「今まさに、一緒に酒飲んでんじゃん。お前が築き上げてきた伝統が崩れたな倉田。ざまぁ」


 坂上ウゼェ……


「それで?古の幻林がどうしたの?何か悪だくみでもしてるとか?」


「わけわかんねぇ同窓会開くお前と一緒にすんな。悪だくみすんだったら、こんな場所で話してねぇっての」


 それは、場所が変われば悪だくみする、って事か?

 悪だくみできる程の知恵ないだろ坂上。


「土屋君が、古の幻林に行ったっきり戻って来ないから心配だな、って話してただけだよ……」


 別に隠すような事ではないので、内容を愛花に話す。

 ただ、何かあった時、愛花を倒せる力を手に入れるためにルーナ・ルイスを探してた、みたいな事は黙っておいた方がいいだろう。


「土屋君は何でそんな危ない場所行ったの?あそこの魔物が、土屋君のレベルに釣り合ってないって知らないわけはないよね?」


「お前みたいなチート能力手に入れる鍵は沙川だ!ってんで、ルーナ・ルイスを探してたみたいだから、土屋はそこにルーナ・ルイスがいる、って踏んでの行動だったんじゃねぇか?たぶん」


 言っちゃうのかよ!?


「沙川が?ルーナ・ルイス?」


「とぼけんなよ。お前が知らないわけねぇだろ?今まで得られた情報を総動員すりゃ、それくらいの予測は立てられるんだよ」


 ドヤ顔で喋ってるけど、その予測を立てたのって土屋君で、オマエは話聞いてただけだからな。


 愛花はチラッと私の方を見る。

 こりゃ情報源が私だと思われてるな……

 私の前で呟いた事や、私と喋った内容を考えれば、ルーナ・ルイスが沙川だって簡単にわかるもんな……

 まさか、私からの情報提供なく、土屋君が独自に導いた答えとは思われないだろう。


「なるほど。バレちゃったんならしょうがないか」


 愛花は、わざとらしく両手を上げて、観念した素振りを見せる。


「不必要に自分の情報が出回る事を極端に嫌うヤツだからね……誤魔化せるなら誤魔化したかったんだけどなぁ」


「同窓会なんて開いて、俺達を引き合わせるキッカケを作ったお前が悪ぃんだよ。自業自得ってやつだな」


 だからオマエは何も知恵出してないだろうが!何でそんなにドヤってんの?オマエ以外は、単独でも答え導き出せたパターンのやつだって理解してるか?


「もしかしたら土屋君が戻って来ない理由……本当に沙川と会えちゃって、色々知りすぎちゃってたから殺された~とかって可能性もあるんじゃないの?」


「待て愛花。沙川が、いくらアノ凶悪なルーナ・ルイスだからと言って、本名バレくらいで殺すか?そんな事で殺されるなら、愛花は何人から命狙われるハメになると思ってんの?」


 同窓会の時、相手の本名をベラベラ暴露してた愛花が何を言ってんの?というようなツッコミは入れておく。


「まぁ沙川……というよりもルーナ・ルイスとしての性格上、本当に殺す確率は半々くらいかな?でも……他にも何か重要な情報を握ってたら話は別かな。その場合、確実に殺しにくると思うよ」


 他の情報?西野が魔王だったって事とか?でも当人が本名名乗っちゃってるんだから、普通に気付く案件だよね?

 チート能力について?いやいや、ソレについてを沙川に尋ねたいって言ってた土屋君が知ってるわけないじゃん。


 土屋君、他に何か喋ってたっけ?


「他に重要な情報って……今言った事以上に重要な情報なんて知らねぇぞ俺……何か聞いてるか倉田?」


 私も思い当たるふしが無かったので、「さぁ?」といったリアクションを無言でとる。


「…………そうか。ブラフだったか」


 何を言っているのか聞き取れない音量で、愛花がつぶやく。『ブラフ』?何が?


「ブラフだぁ?俺達ウソなんてついてねぇぞ」


 ヤバイ、坂上と同じような事言おうとしちゃったよ……


「いやいや、嘘ついてないのは空気でわかるよ。ゴメンゴメン、こっちの話こっちの話。ただのひとり言だから気にしないで」


 素直に謝る愛花。

 少しピリついていた空気が元に戻ったような気がした。


「ってか本名バレしてただけでも殺される確率半々なんだろ?土屋のヤツ、本当にルーナ・ルイスに遭遇して殺された可能性があるな……」


「そんな簡単に会えるなら苦労しないっての……私なんて何十年アイツの事探し回ってると思ってんの?」


 たしかにそうだ。フラっと行ってフラっと会えちゃうなら、愛花もそこまで苦労してないだろう。


「わかんねぇぞ。ウチのギルドによく来るオッサンだって会えたんだ。少なくともこの周辺にルーナ・ルイスがいる事は間違いないだろ?」


「……今、何て言った?誰が誰に会った、って?」


 和らいだ空気が再びピリつきだす。


 愛花さん。殺気出し過ぎじゃない?

 気持ちはわかるから、ちょっと落ち着こう?


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